薬王堂気まぐれ通信使663   2012・7・22
Yakuoudo Capricious Communications Satellite

               63少年漂流記

7月21日、63歳になった気まぐれ広島人は仕事を午後6時に終えます。
今夜は土曜日、気の向くまま瀬戸内海一泊航海に出ることにしました。
舟は平成元年製造の7メートルFRP船舶、SELESTE号、おんぼろ艇です。
エンジンは3世代目、150馬力の4サイクルエンジンを搭載しています。
今回はエンジン周りの機器にトラブルを生じました。

60リットルのガソリンを用意して食事、ビール、デザート(果物)、お茶、釣り用の餌などをそろえていますと7時を回ります。
昔、港だった入り江に30年以上係留していますので保管料はかかりません。
ただし、なにが生じても全て自己責任!今までに舟荒らしや盗難、ロープ切断による漂流、損壊など色々な事件を経験してきました。
厳格な表現をすれば不法係留とでも言いましょうか!咎められれば反論できませんが回りに何艘か居ますので「皆で渡れば怖くない横断歩道」と言ったところでしょう。
では出発することと致します!



夜の海風は目に悪いですのでゴーグルを着用します。
時速でいいますと35キロくらいでしょうか?40分の夜間航行で黒神島(無人島)に到着します。
先週、ひどい雨が降ったので海面付近は塩分が薄くなっているようです。
海底の環境にも影響したのでしょうか?魚が全く釣れません。
それでも夕食(サーモンは苦手!イクラが少ない!)を済ませビールを片手に独り暗い海に想いを寄せます。



対岸の能美島には灯りがちらほら・・・
そろそろ寝る準備をいたしましょう。
お湯を入れてきたペットボトルは熱いままでした。
頭から湯をかぶり歯磨きをします。
近くのホームセンターで買った小型の扇風機が正解でした。
バッテリーからの直流電流を交流変換して用います。
海上には蚊はいないと思うでしょう。
それは大間違い!耳元でぶんぶん言われると寝られたものでは有りません。
蚊取り線香と蚊の侵入を防ぐ防御ネット@Aは必需品です。
それでは寝ることにいたしましょう。



耳元にラジオが一台、もう何年も電池を変えていません。
波に揺られながら寝てしまいました。


夜明けの黒神島

朝5時に目が覚めます。
舟を留めていたのはカキ筏です。
うっすらと夜が明け、同じように海上で一夜を過ごした舟がとなりのカキ筏↑に見えました。
早朝の船出、友人がいつも釣るという柱島(山口県)まで行くことにしました。
海上は霧で覆われています。
経験とGPSを頼りに舟を走らせます。
端島に到着します。



波は穏やか、やっと霧が晴れてきました。
地元の漁師舟が一艘、アジを釣っています。
私もおもむろに釣り糸を垂れますが魚信は少ないようです。
今日は現れませんが毎週ここに来る友人2人が釣り過ぎているように思います。
ここまでは何とか・・・
ところが舟の方向を変えるのにハンドルを回した途端、後方でプシュと音がしました。
何が起きたかその時は理解できませんでしたがエンジンの向きをハンドルで制御することが出来なくなりました。
エンジン部に行ってみます。
何事もないようですが海面に油が流出し青く光っています。
よく調べてみますとエンジンを動かすはずの油圧シリンダーから油が漏れているではありませんか!
これはいけない!帰れない!どうしよう!動揺が過ぎります。
広島港から約40キロ離れた海上です。
冷静に、冷静に・・・手立てはある!考えてみよう!
携帯電話が有りますのでマリーナに電話をしたら来てくれるかもしれない!が第@案!
サブエンジンがあるのでそれで航行するのも第A案!予備ガソリンは若しかのことを考えて20リットル積んでいました。
それより何とか動かせるだろうか?
スロットルを上げてみました。
1分間に2000回転、スクリュウを回すと同じ場所を回転するばかりです。
進行方向右巻きのスクリュウではヘリコプターと同じで同心円を描きながら回転をしてしまいます。
エンジン上部を押さえて回転を防がなければなりません。
押さえるものが無い!固定したら直進しかしない!手動で押さえてみました。
何とかと手を使えばエンジンの動きを制御できるようです。
それでも1分間に1800回転以上は手足に負えませんでした。
前に行ってスロットルを調整し、後に走ってエンジンを押さえながら悪戦苦闘が20分ほど続きましたでしょうか・・・
何とか舟を操りながら航行が出来るようです。
広い海と波風がないから出来たこと!今日の天候に感謝しなければいけません。
保高島沖をゆっくりと航行します。
午前中とはいえ陽射しはきつく水分が必要です。
前方の操縦席は無人で航行しました。
やっと倉橋島の突端に到着します。
2時間かけて早瀬大橋を通過します。
大きな船が横を通過しますと波にもまれて小さな船は一回転します。
はじめはぞうりでエンジン全部のボルト部を押さえていましたが足裏が痛くなってきましたので木切れをあてがいます
早瀬を過ぎ田原沖まで航行してきました。
横に三ツ子島が見えてきました。
咽が乾きます
江田島の秋月を過ぎ小用の友人宅が近づいてきます。
電話は何処だ!携帯電話を探します。
探す間に舟の操縦はおろそかになりますので回転や蛇行を繰り返します。

「脇茶〜ん!20分後に家の前を通過するぞ〜〜〜」

やっと見つけた携帯番号、次からはもっとよく見える携帯電話にしよう・・・
そんな中、友人から返信が来ます。
この忙しい最中なのに・・・

「お茶でも飲んでいけや・・・」

エンジンを止めたら一からやり直し、そんな余裕は有りません!
友人は陸から様子を観察してくれました。
その時の様子をお知らせしましょう!

     @、船が来た!

    A、ようやっとるは・・・

    B、がんばれよ!



私は一枚彼を写すのが精一杯!さようなら〜また来るよ!と言い残し航行を続けます

宇品のマリーナが見えた
左足は限界です。右足も身体を支えるのに精一杯
約4時間あまりの航行でやっと見慣れた埠標が目に入ります。
着いたやっと着いた
今日は散々な一日でした。
マリーナに事情を告げ修理と相成りました。
修理費用が気になりますが命に別状も無くよかったと思わなければいけません。
マリーナの舟で係留場所まで送ってもらいました。
今夜のチダイの味は格別でしたね。
                                       終わり
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