戦後ベストセラー

95/09/30 東京夕刊 二面 02段
[戦後ベストテン]「愛と死をみつめて」=1964年 難病の少女を励ます

 ◆愛情に満ちた書簡集
 二人は一九六〇年、阪大付属病院の炊事場で知りあう。大島みち子は、顔の骨が侵される「軟骨肉腫(にくしゅ)」という難病で入院中だった。みち子高校二年生、河野実は浪人中だった。

 以来、みち子が二十一歳で永眠するまでの三年余、東京と大阪に離れて暮らす二人の間で約四百通の手紙が交わされた。「愛と死をみつめて」は、その往復書簡集である。

 病状が進み、死と向き合いながら、彼女は希望と明るさを失うまいとけなげに運命とたたかう。顔の半分を切り取る手術を前に、さすがにくじけそうになるが、実の励ましと愛情が支えとなった。

 みち子の死後、六三年末に刊行され、翌年末までに百三十五万部も売れた。続いて刊行されたみち子の日記「若きいのちの日記」は、手紙には書けなかった深い苦悩がつづられ、これもベストセラーに。大空真弓主演のテレビドラマ、吉永小百合での映画化、歌のヒットなどが売れ行きに拍車をかけた。

 しかし、そうした影響を除いても、二人の書簡にあふれる純粋で抑制的な感情の美しさは、時代を超えて人をうつ。現在は大和出版から刊行されている。

 ◇1964年(昭和39)=出版ニュース社調べ
〈1〉 愛と死をみつめて(河野実・大島みち子、大和書房)

〈2〉 日本の文学(谷崎潤一郎ほか編、中央公論社)

〈3〉 山田風太郎忍法全集(1)〜(11)(講談社)

〈4〉 豪華版世界文学全集(阿部知二・伊藤整他編、河出書房新社)

〈5〉 若きいのちの日記(大島みち子、大和書房)

〈6〉 徳川家康(1)〜(21)(山岡荘八、講談社)

〈7〉 少年少女世界の名作文学(小学館)

〈8〉 悲劇の経営者(三鬼陽之助、光文社)

〈9〉 炎は流れる(1)〜(4)(大宅壮一、文芸春秋新社)

〈10〉されどわれらが日々―(柴田翔、文芸春秋新社)