6月27日講座   吉本先生


こんばんわ!
今朝ほど、薬草を探しに近くを歩いていましたらサワガニを見つけました。

サワガニ

サワガニは薬とはしませんが同じ川に住むモクズガニを使った伯州散(はくしゅうさん)という薬があるのを思い出しました。
今夜は地元の民間薬・伯州散についてお話ししてみましょう。
伯州とは現在の鳥取県西部地区(米子・境港周辺)から島根県東部(中海)を含む地域を指します。
私は昔、伯州散を使ったことがあります。
それは痔ろうで半年以上も膿と便が下着を汚して困っておられた人でした。
黄耆建中湯という処方をしばらく服用して快方に向かいますが最後の段階が上手くゆきませんでした。
私はこの方に伯州散の服用を勧めます。
ところが服用して二日目くらいから患部がひどく腫れ上がり、ブドウで言えば巨峰のように膨れてしまいました。
結局、肛門科に行くことを薦めます。
入院して4〜5日が過ぎ、明日は手術という時にたくさんの膿が出てそれっきり治ってしまったのです。
結局、手術もしないで退院したんです。
喜ばれましたね〜!

昔、私は伯州散を自分で造ったことがあります。
中に入るものはマムシモクズガニ(津蟹=ヅガニ)、鹿の角の三種類なんです。
それぞれに黒焼きにして最後に混ぜ合わせるんです。
黒焼きは酸素が入らないように密閉しまして10時間くらい蒸し焼きにします。
先ず、耐熱用の蓋の付いた土鍋を買いまして中にマムシを入れます。
ガス火でゆっくりと焼いてゆきますが蓋が開かないように針金で閉じます。
わずかな隙間から白い煙が出てきます。
これが又臭いんです。
隙間には粘土を詰めまして空気が入らないようにします。
蒸しあがらない途中で心配だからと開けたらダメです。
酸素が入りポッと燃え上がって炭化し灰色になってしまいます。
黒焼きは真っ黒な活性炭になるまでじっくりと蒸し焼きにしなければいけません。
モクズガニは島根県の匹見地方に多く、当時30匹くらいが入った一斗缶が6千円くらいで手に入りました。
送られてきた一斗缶の中でモクズガニが動いていたのを思い出しますが、どうせ黒焼きにするんだから食べた後の殻を使えばいいと思ったんです。
これは失敗でした。
中味のほとんどない殻を黒焼きにしましたらスカスカの軽い黒焼きしか出来なかったのです。
それでもう一度モクズガニを注文しました。
今度は食べないでそのまま黒焼きにしました。
すると黒光のする立派な重たいモクズガニの黒焼きができました。
もう一つ、鹿の角の黒焼きを造らなければいけません。
これは宮島の鹿の角を使いました。

鹿の角(これは脱落したもの!)

宮島では年に一度、観光客に被害が出ないように鹿の角を切り落とします。
これを手に入れまして当時、大阪にありました黒焼き専門のメーカーに頼んだんです。
いい鹿の角の黒焼きが出来ました。
考えてみましたら手間の要る行程ですね。
これらの黒焼きを一緒にして薬研で混ぜ合わせるんですね。
そうゆう行程を経て伯州散を製造しますので貴重です。
鹿の角が手に入らないときにはモグラの黒焼きを使うとも言われています。
最近では品物も手に入りませんので製造が出来ません。
私は昔に製造したものや製品化されていた伯州散を参考資料として保存しています。
マムシは成熟した個体がよいでしょう。
未熟なマムシは収量も少ないし使うのにかわいそうですね。
生のものが無ければニホンマムシの乾燥体を使用します。
中国地方にはマムシが多く、昔は見つけると首根っこを捕まえて持って帰り蒲焼にして食べていました。
幼少の頃、爺さんはマムシを見つけますと捕まえ皮をはぎ竹に巻いて乾かしていました。
幼稚園に行く時に釜戸の火で一寸(4〜5センチ)ほど焼いてもらいかじりながら山道を急いだものです。
幼稚園でよく鼻血が抜けていました。
まあ、毒がありますので素人の捕獲はしないほうがいいでしょう。
モクズガニは上海ガニに似た、ここらでヅガニと言われている爪に毛のある蟹です。
海の蟹や浜辺のアカテガニではありません。
鹿の角は日本鹿の雄のものを用います。
昔の本を見てみましょう。
文政8年(西暦1825年)に刊行された吉益東洞著の古方兼用丸散方という書物にこんなふうに書かれてあります。

下に解読文↓

『伯州散 = 悪毒の発出し難き者を治す 一方を見るに曰く、一切の打ち身、虐疾、瘡毒、疼痛、或いは諸々の瘡が内攻の者を治す。又、一方を見るに曰く、毒腫、又、膿ある者を治す 反鼻(マムシ)、津蟹(モクズガニ)津蟹は是、河蟹也、海の蟹に非ず也 、角石(鹿の角)各々霜にして各等分にす。角石は即ち鹿茸也。右三味、各々別につきて篩い、合わせて散と為す。之を服すに法として酒にて一銭を服す。病重き者は日に三度服す!』

又、文政7年(西暦1824年)に刊行された華岡青洲先生門下の筆記する春林軒瘍科方箋には下記のような記載が見られます。

瘍疽門

下に解読文↓

『伯州散 瘍疽、瘡瘍にして膿成らざる者を治す!』

諸瘍門

下に解読文↓

『諸瘍にて膿未だ成らざる者を治す!』


要するに醸膿を促す目的で用いられたようです。
昔は抗生物質がありませんでしたから化膿しますと炎症を鎮めるよりか早く化膿を促進させて体外に排出させるほうが良策と診られていたようです。
そんな時に用いられたんですね。
まさに荒治療とも見受けられますが百に数例の完治を期待して使われてきたものでしょう。
山にはヤマグワの青い実やよく似たコウゾの実がなっていました。
朝、捕まえたサワガニは空揚げにして食べました。
今夜は世界残酷物語の薬王堂気まぐれ通信使でした。
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