中国新聞文化センター・健康講座 広島県の薬用植物と漢方

平成18年8月23日・水曜日 午後6時半からの講義内容

講師:吉本悟先生
皆さん、この植物は何かわかりますか?
なかなか難しいでしょう。

生徒A:見たことが無いです。

では葉をちぎってみてください。

糸を引いています
これで何か判る人はいますか?
まだ分かりませんね!
ではこの樹皮を見せましょう。
割ってみてください。

割れ目にたくさんの繊維質が見える
白い糸のようなものがたくさんあります。
これで分かるでしょう!
話は途中ですが種も見てください

生徒B:葉の形はよくわかりませんがこの匂いは嗅いだことがあります。

すごいですね!
それで何の匂いですか?

生徒C:これはトチュウ茶の匂いと似ています。

えらい!
これはトチュウなんです。

生徒全員:エ〜!え〜!ゲ〜!

白く見えますのはグッタペルカと言いましてゴム質の繊維なんです。
トチュウには特にこの繊維質が多く身体に取り入れれば筋(スジ)を強くしてくれるのではと昔の人は考えたんでしょうね。
実際、使ってみますと足腰の萎えた方を丈夫にすることが分かってきました。
それに安胎にいいことも分かりました。
産婦や胎児の骨組みがしっかりするのかもしれません。
数日前にテレビで痩せる薬としてトチュウ=杜仲の葉がいいと放映されて有名になりましたね。
中国の山奥で肉食をするのに太った人がいないという地方がある!と放送されました。
そこではお茶の代わりにトチュウを飲んでいるですね。
そんなことからトチュウを服用したら痩せる!という話になったのでしょう。
実際、トチュウ(杜仲)には血圧を下げておしっこを出す作用があります。
漢方の世界では肝腎を補い腰や膝の痛みを和らげる薬として使われてきました。
歳をとりますと腎の働きが弱くなります。
老化の特徴は足腰に力が無くなり、耳が遠くなって目が見えにくくなります。
歯が抜けやすく、集中力が無くなって意思も弱くなり白髪になって動きが鈍くなります。
そのような現象は身体の腎の働きが弱るから起きるとされています。
杜仲はこのような老化を進みにくくすると言われています。



さて次の植物はどこかで見たことがありますか?
根の部分ですから見たことはないでしょう。

生徒D:『広島県の薬草』という本で見たことがあります。確か182ページのトチバニンジンの画像でした。

えらい!
そのとおりです。
ウコギ科のトチバニンジンなんです。
10年前に私が高野町で撮影したものです。
本には赤い実の画像もありますね。
赤色と黒色の実もあります。
赤い色を女性に、黒色を男性に見立て一つの実にありますので相思子様(想思子様)人参と言われています。
根は竹の節を思わすことからチクセツニンジン(竹節人参)とも呼ばれています。
この根は節が6節見られますので6年経過したトチバニンジンだということです。
根の先端に膨れた部分があるのが分かりますか?
掘る時にこの肥大した部分が折れ易いので取り忘れてしまいます。
ここは薬用人参で言うところの大切な薬に使う部分なんです。
天然物の薬用人参は韓国や朝鮮の深山でまれに採集されますがこのトチバニンジンに形態が似ています。
薬用人参とトチバニンジンは植物学的に近い仲間ですが種類は違います。
しかし地上部を見る限りその区別はつきません。
県北で地上部とその根を掘ったときの画像がありますので載せてみましょう。

野生状態の実をつけたトチバニンジン

根を掘ったときに見られる貯蔵根の様子
日本各地でこのトチバニンジンを胃腸の良薬として使ってきました。
吉益東洞という江戸時代の医者は薬用人参の代わりにトチバニンジンの根を使いました。
食欲がなく、みぞおちがつかえるときにはたいへんによく効きます。


今夜はもう一つ、目につきました植物がありましたので紹介してみます。
サテこれはなんでしょうか?
割ってみたり匂ってみたりしてください。
但し、なめないで下さい。
実は毒なんです。
尖った部分はいくつありますか?

生徒A:八つです。

そう、いい所に気がつきましたね。
では何かに似ていると思いませんか?


生徒B:乾燥したら八角という香辛料に似ています。

そうなんです。スターアニスと全く同じ形なんです。
八角=八角茴香=スターアニスはトウシキミという植物の実です。
これは日本に自生するシキミという植物の実です。
宮島にはたくさんありますが鹿やサルは毒と知ってか全く食べようとしません。
双方ともシキミ酸という成分が含まれますが日本産のシキミにはアニサチン・シキミニンという痙攣毒が多くあります。
かつてヨーロッパ(ドイツ)にシキミの実が八角と間違われて輸出され中毒事件を起こしたことがありました。
中華料理では肉を炒める時に八角を入れて香りを付けたり肉を柔らかくします。
健胃作用や消化を助ける効能があると言われます。
八角で重要なことはこれを原料として今、タミフルというインフルエンザを予防し治療する薬がスイスのロッシェという会社で造られているということです。
原料は八角ですがその成分であるシキミ酸を何行程も化学変化させて製造します。
シキミにも薬になる可能性があるのでは?と私は思います。
シキミには毒性のある成分が多すぎたのでしょうね。
タミフルも多量に服用したり誤った用い方をすると幻覚などの副作用が出ることが分かっています。
それと日本ではシキミを宗教上の儀式に用いる宗派があります。
古い墓地ではシキミの樹が植えられていることがありますね。

今夜はいろいろなことを勉強しましたね。
では9月13日・水曜日、午後6時半にまたお会いしましょう!

熱弁を振るう吉本悟先生

(注=資料画像は全て吉本悟=気まぐれ広島人が作成したものです!)
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