12月12日  屠蘇の話し

勝谷先生

屠蘇(とそ)について
      
屠蘇の語源について

   「蘇」という鬼を屠(ほふ)る(殺す)といわれます。「屠」には「死」「葬る」という意味があります。または邪を屠(ほふ)り、身体を蘇らせるという意味からこの名がついた説もあります。
* 鬼=邪疫病魔=わるいはやりやまい
* 邪・・・風寒暑湿等の外因によって起こる疾病の病原 ex:寒邪、湿邪

屠蘇の由来

  むかし嵯峨天皇の御代、弘仁年間(今より千百余年以前)中国の博士・蘇明(蘇昭)(蘇吸)が和唐使として来朝のとき伝えたもので、天皇四方拝(元旦)の御式後、お酒にこの屠蘇を浸して御用いになりましたのが始まりです。 国民もこれに倣い、元旦に屠蘇を用いると一年中の邪気を除き、家内健康にして幸福を得られるとして、家ごとに必ず屠蘇酒を用いて新年のお祝いの儀式としていました。

屠蘇の効用

  健胃、強壮、咳、風邪、血液浄化、発汗促進などです。当然、酒やみりんにはブドウ糖、必須アミノ酸、ビタミン類も含まれており、さらに適度の天然アルコールは血行を促進させます。これらのことを考えると、お屠蘇は単なる正月の儀礼的な飲み物と言うより、先人達がたどりついた健康のための最高の妙薬と言えます。

屠蘇の薬味について

  屠蘇散に調合されている薬草は7〜10数種類(製造元により多少の違いがあるため
 主なものとして紅花、浜防風、蒼朮、陳皮、桔梗、丁子、山椒、茴香、甘草、桂皮などです。

屠蘇の作り方

  酒、みりん、あるいは酒とみりんを合わせたものをベースにします。(みりんを加えることにより、甘さと口当たりがよくなり、家族全員が飲めるようになる。)
1. 用意したお酒やみりん300ml程度に
2. 上記の生薬、各0,1〜0,5グラムを大晦日の晩に浸す。(テイーパックに入れる方が良い)
3. テイーパックを元旦に取り出す。

屠蘇の正しい飲み方

  元旦の朝、若水(元旦の早朝に汲んだ水)で身を浄め、初日や神棚、仏壇などを拝んだ後、家族全員が揃って新年の挨拶をし、雑煮の前にお屠蘇を飲みます。その時使用される器は朱塗りまたは白銀や錫などのお銚子と朱塗りの三段重ねの盃です。
  飲む順序は一年の無病息災と延命長寿を願うところから、若者の活発な生気にあやかる意味で年少者より順次年長者へと盃をすすめるのが決まりです。また、正月三が日の間の来客者に対しても、まず、初献にお屠蘇をすすめて新年のお祝いの挨拶を交わすのが礼儀です。年々、正月らしさが失われていく現在、私たち日本人が伝えてきたお屠蘇の習慣は、家族の健康と精神的な絆を保つうえで是非、伝えていきたい行事の一つです。ただし、若水で身を浄めることに関しては風邪に注意してください。

寒中、お酒に入れて服用することで身体から邪気を追い払い長寿を得られると伝えられてきました。
前で述べました一般的な屠蘇散に入っている生薬を紹介してみましょう。

紅花・防風・蒼朮・陳皮・桔梗・丁字・山椒・甘草・桂枝・茴香の10種類です。

紅花(べにばな)は赤色の染料として色付けに使われますが服用することで血行をよくしたり婦人科疾患によく用いられました。
防風はセリ科の植物ですが中国で使われてきたものは日本には自生していません。
日本で同じような効能を持ち合わせているものとして海岸に自生するセリ科のハマボウフウ(浜防風)を使用してきました。
風邪などの邪気をはらって気を巡らせる働きがあります。
蒼朮はホソバオケラの根を使います。
やはり邪気を追い払い身体の余計な水分を取ると言われています。
陳皮はミカンの皮ですが吐き気を止め消化不良を改善するなど健胃作用があります。
桔梗は痰を取り除き咳を止め化膿をした時に排膿の目的で使用します。
丁字は西洋でもクローブとして使われ身体を温めるのに使います。
寒い日などホットウイスキーに入れますね。
山椒はミカン科・サンショウの実の果皮の部分を薬用にします。
やはりお腹を温めて腸の蠕動運動を滑らかにします。
昔は虫下しにも使われていました。
ウナギを食べる時に振り掛けますね。
脂っこいものの消化を助けるのでしょう。

甘草はマメ科の植物ですが日本には自生しません。
味を調えたり甘みをつけたり解毒や鎮痛に用います。

桂枝はニッケイの樹皮です。
日本産の桂皮は時々お祭りなどで見ますが気味が弱く八橋などのお菓子に使われます。
中国南部、ベトナムに出来ます桂皮は上質で味も強く、桂通桂皮とか江南桂皮と呼ばれて薬に使われます。
内臓の動きをよくして新陳代謝を亢進します。
最も味のよい桂皮はスリランカでセイロン桂皮の名前で栽培され収穫されています。

ハーブの世界では茴香をフェンネルと呼び味付けに使っています。
香りがよくて胃腸の働きをよくしますので芳香性健胃薬として使っています。

以上10種類の生薬を小さく切り刻んで調合したものが屠蘇散です。
正月で美味しいものをたくさん食べたり、お酒を飲んで胃腸に負担がかかりましたら屠蘇散を服用してください。
お酒に漬けて飲むのもいいですが、お酒を加えたお湯で煎じて服用するのもいいと思います。



吉本先生

ではバトンタッチしまして私のお話をしましょう。

前回の時間にヤドリギを見せたことを思い出しますか?
ついでに紹介しましたので思い出せませんか?
関節の痛みや安胎の薬として中国ではよく使われます。
本来は桑の木に宿るオオバヤドリギと言う種類を薬として使うのですが桑の木も少ないしオオバヤドリギも手に入らないのでミズナラなどに宿るヤドリギを使います。
乾燥しますと節の部分から外れてしまいますので標本には難しい植物です。
ヤドリギ科の植物は日本に五属あるのですがいずれも肝腎を補って骨や筋肉の老化を予防する効能があるとされます。
ですから今日はヤドリギの種類を紹介してみましょう。
先ずオオバヤドリギ
これは倉橋島で見つけたものですがあまり目にしません。
特にオオバヤドリギの花は寿命が短く見ることはほとんどありません。
桜の木に寄生したり杉の木に寄生しています。
それにこれはマツグミと言うヤドリギ科の植物です。
松の木を宿主として寄生します。
それからこれはヒサカキなどに寄生するヒノキバヤドリギと言う植物です。
ヤブツバキとかサンゴジュなどに寄生して増えます。
ヒノキバヤドリギの節に丸く大きくなっている部分が果実です。
この実の中に粘着性の種子が入っていて鳥などがついばんで他の木に運ばれるのでしょう。
ヒサカキの枝や葉に粘着した種子は発芽します。
新芽が一ミリ程度と小さいですのでルーペでしか確認できません。
それではマツグミとヒノキバヤドリギがどのように宿主の木に根をはっているか?見てみましょう。

上の画像でマツグミが松の木に寄生して幹の中に根を伸ばしている様子が分かりますか?
松にとりましては迷惑な話で栄養をマツグミに吸い取られているんですね。
そのためか寄生された枝の部分は肥大しています。
ヒノキバヤドリギ↓でも見てみましょう。
宿主のヒサカキの枝も肥大しています。
そこを切ってみましょう。

ヒノキバヤドリギの緑の根がヒサカキの樹幹に伸びている↑のが分かりますか!
ヒサカキに取りましても迷惑な話です。
でもヤドリギ科の植物はこうして他の木に寄生することで遺伝子を維持しているのです。
私達の目から見ますと被害を受けているのは宿主のほうですが、もしかしたら共存関係があるのかもしれません。
それにしてもヒノキバヤドリギが着生したヒサカキは元気がないようでした。
宿主が弱れば寄生した植物も弱りますから何か相互関係があると思います。
異なる種のなかに進入し遺伝子の違う細胞が隣同士になって栄養をやり取りするなんて考えられませんよね。
動物で言うと我々の筋肉や脳みその中に他の動物が入り込んで成長するんですからたまったものじゃない!
でもそんな性質を利用して薬にしてるのかもしれません。
今日はこれくらいにしましょう。
来年もよろしく御願い致します。

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