類聚方広義・第二木曜会 2015・2・12
備急圓 礬石湯 消石礬石散 礬石丸 蛇床子散
按すべからず。或いは吐血、鼻血、下血し一に鬼排と名づく。 ○肘后方に曰く、中悪は、道間門外に之を得る。人をして心腹刺痛し、気心胸を衝き、胸脹せしむ。治せずして人を害すと。肘后、病源の諸家の説は、蓋し此の如し。然れども学者当に見症に従事して、以って方を處し、病因病名に拘拘すこと勿れ。 此の方、飲食傷、霍乱、一切の諸病暴発し、心腹満痛する者を治す。 妊娠、水腫、死胎冲心、便秘し脈實の者、之を用うれば胎即下る。紫圓も亦た佳し。但其の人の強弱を審らかにし、以って之を處すべし。 |
備急圓 心腹卒痛する者を治す。 大黄 乾姜 巴豆 各一両 二銭 右薬各精新を須いる。先ず大黄乾姜を擣きて、末と為し、巴豆を研し中に内れ、合治し一千ほど杵きて、用うに散と為す。蜜に和し丸するも亦た佳し。密器中に之を貯え、気を歇きせしむ莫れ。心腹脹満し、卒痛して錐刺の如く、気急し口噤し、停尸卒死の者を主どる。煖水若しくは酒を以って、大豆許り三四丸を服すに、或いは下らずんば、頭を捧げ起こして灌げ。咽に下せしめば、須臾にして |
一(イチ)に=ひとつに 道間(ドウカン)=道の空間 處(ショ)し=所し 拘拘(クク)=こだわる、拘泥 |
擣(ツ)く=つく 研(ケン)し=すりつぶして細かくし 合治(ガッチ)=あわせ混ぜ 歇(ツ)きる=消え去る 莫(ナカ)れ=してはならない 錐刺(スイシ)=キリで刺す 気急(キキュウ)=呼吸が早くなる 口噤(コウキン)=口をつぐむ・何もしゃべらない 停尸(テイシ)=死んだように動かなくなる 卒死(ソツシ)=急に死んだようになる 煖水(ダンスイ)=あたたかい水 捧(ササ)げ=両手でかかえて 須臾(スユ)=しばらくして |
漿水、一説に地漿と為すは、非なり。今水と酢を和して煮て、以って漿水に代う。 卒死にて壮熱する者、礬石半斤、水一斗五升を以って、煮て消し以って脚を漬し、踝を没しせしめば、即蘇ると、金匱要略に見えるが、余は未だ之を試さず。 |
当に差ゆべし。如し差えずんば更に三丸を与う。白湯か或いは酒を以って服すこと、五分自り一銭に至る。当に腹中鳴りて即に吐下すべし。若し口噤せば、亦た歯を折りて之を灌ぐべし。 礬石湯 脚気痿弱不仁、及び上入して心を搶く者を治す。 礬石 ニ両 四銭 右一味、漿水一斗五升を以って、煮ること三五沸し、脚を浸すに良し。 水一升二合、醋三合を以って、和し煮て脚を浸す。 「脚気」冲心、 |
如(モ)し=もし・もしくは 礬石(バンセキ)=硫酸カリウムマグネシウム・防腐剤・皮なめし・染色 痿弱(イジャク)=なえて弱る 搶(ツ)く=槍でつかれるように痛む |
蘇恭曰く、大麦は腹満を療すと。 ○黄胖病、腹満して塊有り。胸膈跳動し、短気し起歩能わざる者は、此の方に宜し。鐵粉を加え丸と為すも、亦た良し。 消礬散は、痰喘咳嗽、気急息迫し、臥起能わず、面身煤黄色の者有り。極めて悪候と為す。麻杏甘石湯、木防已湯等を選び、此の方と交互に与うべし。能く食する者は起くべし。 |
消石礬石散 一身盡黄、腹脹り水状の如く、大便黒く時に溏する者を治す。 消石 礬石 各等分 右二味、末と為し、大麦粥汁を以って和し、方寸ヒを服す。日に三服す。病は大小便に随い去る。小便正に黄、大便正に黒、是れ候なり。 黄家、日哺所発熱、而して反って悪寒す。「此れ女労にて之を得ると為す。」膀胱急し、少腹満、身盡く黄、額上は黒く、足下熱す。 |
蘇恭(ソキョウ)=唐代の本草家・著書に新修本草 鐵粉(テップン)=くろがね(鉄)の粉 煤黄(バイオウ)=すすけた黄色 |
溏(トウ)す=水溶性の柔らかい便 候(コウ)=理由、わけ |
沈淋の曰く、藏、即ち子宮なりと。止の字は当に散の字に作るべし。堅癖は散らず、子宮に乾血有るなり。白物は、世に白帯と謂う。 ○礬石丸蛇床子散の二方を合わせ、樟脳を合わせ、煉蜜に和し、小指大、長さ一寸を作り、更に白粉を用い衣と為して、綿嚢に盛りて、陰中に内れるを、良しと為す。 本草綱目、礬石部に、此の條を引いて、藏は子藏と作すと。魏荔彤の曰く、藏堅の藏は、子宮を指すなり。藏中の藏は、陰中を指すなりと。 |
因って「黒疽」作す。其の腹脹りて水状の如し、大便必ず黒く、時に溏す。「此れ女労の病にて、水に非ずなり。腹満なる者は治し難し。」 礬石丸 経水不利、白物を下す者を治す。 礬石 三分 一銭五分 杏仁 一分 五分 右二味、之を末し、煉蜜和し、棗核大に丸め、藏中に内れ、劇しき者は再び之を内れる。 婦人、経水閉じて利せず、藏堅癖にして止まず、「中に乾血有り、」白物を下すは、 |
白帯(ハクタイ)=おりもの 白粉(ハクフン)=江戸時代では米の粉を指す 陰中(インチュウ)=膣 魏荔彤(ギレイトウ)=清代、大易通解を著す |
白粉は、粉錫なり。 脈経に、婦人陰寒、陰中を温む座薬、蛇床子散之を主どるに作ると。 徐彬の曰く、座は、陰中に内入するを謂う。生産を座草と謂うの座の如きなりと。按ずるに、之を座薬と称すは、起行を禁止するの義に似る。徐注は恐らく允當せず。 |
蛇床子散 白物を下し、陰中痒く、或いは小瘡有る者を治す。 蛇床子仁 右一味、之を末とし、白粉少し許りを以って、和して相得せしめ、棗大の如きに、綿裏之に内れ、自然に温む、 陰中温む座薬は、 |
白粉(ハクフン)=金匱要略(婦人雑病篇)の白粉は塩基性炭酸鉛のことだが毒性が強い 粉錫(フンシャク)=鉛白、鉛粉、炭酸鉛、化粧に用いられたが皮膚より毒性が吸収され有害 徐彬(ジョヒン)=清代の医学家、張仲景金匱要略論註を著す 起行(キギョウ)=産後に起きて歩く 徐注(ジョチュウ)=徐彬の注釈 允當(イントウ)=妥当、ゆるされる |
蛇床子(ジャショウシ)=中国ではオカゼリの成熟種子、日本ではヤブジラミの種子を代用する 白粉(ハクフン)=昔の中国では鉛白を指す、長期に使用すると皮膚から毒性が体内に入る |