類聚方広義・第二木曜会 2013・7・11
百十二頁 表
大陥胸湯 大陥胸丸
若し結胸せず云云、身必ず黄を発すなりの下に、茵チン蒿湯之れ主どるの六字脱す。茵チン蒿湯の條を参看すべし。 結胸熱実は、白散の寒実結胸と、正に相反す。而して各其の治を殊にする。則ち此の語は削るべからざるに似る。 |
煩、心中懊ノウ、陽気内陥、心下因って硬く、則ち「結胸」を為す。大陥胸湯之を主どる。若し「結胸」せず、但頭汗出で、餘所に汗無し、剤頚して還り、小便不利、身に必ず黄を発すなり。 ○「傷寒、六七日、結胸熱実、」脈沈にして緊、心下痛み、之を按ずるに石硬の者、 ○「傷寒、十餘日、熱結して裏に在り、」復往来寒熱の者、大柴胡湯を与う。「但結胸し大熱無き者は、此れ水結胸脇に在るなり。」但頭に微し汗出ず者は、大陥胸湯之を主どる。 ○「太陽病、」重ねて汗を発し、復 |
白散(ハクサン)=桔梗白散 |
日哺所少しく潮熱有りの下、千金方に、心胸大いに煩を発すの五字有り。 脚気冲心、心下石硬、胸中大煩し、肩背強急、短気し息するを得ざる者、産後血暈、及び小児の急驚風、胸満して、心下石硬、咽喉痰潮、直視痙攣、胸動奔馬如き者、眞心痛、心下硬満、苦悶し死せんと欲する者、以上諸症は、治法神速、方剤駿快に非ずんば救うこと能わず。此の方に宜し。是れ摧堅応変の兵なれば、用うる者能く其の肯綮を得て、而して樞機を執るに在るのみ。 |
之を下す。大便せざるに五六日、舌上躁して渇、日哺所小し潮熱有り、心下従り少腹に至り、硬満して痛み、近づくべからざる者、 ○「傷寒、五六日、」嘔して発熱の者、柴胡湯證具わる。他薬にて之を下すを以って、柴胡證仍を在る者は、復柴胡湯を与う。此れ巳に之を下すと雖も、逆と為さず。必ず蒸蒸として振るい、卻て発熱汗出でて解す。若し心下満して硬痛の者、「此れ結胸と為すなり。」大陥胸湯之を主どる。但満して痛まざる者、「此れ痞と為し、」柴胡之に与うに中たらざず、半夏瀉心湯に宜し。 |
摧堅(サイケン)=硬いものをくだく 肯綮(コウケイ)=物の要所・骨と筋肉の結合したところ 樞機(スウキ)=物事の肝要なところ |
日哺所(ニッポショ)=夕方 潮熱(チョウネツ)=満ち潮のように次第に熱が高くなること 他薬(タヤク)=丸薬と同じく巴豆剤のこととされる |
此の方、余の家は大黄八銭、テイレキ杏仁各六銭、消石十銭、甘遂六銭末と為し、煉蜜にて和し、麻子大に丸め、罌中に畜蔵し、用うに臨み白湯を以って一銭を送下す。病重き者は、一銭五分より二銭を用う。東洞先生、晩年大陥胸湯を以って、丸と為し用う。猶理中抵當二丸の例のごとし。瀉下の力頗る駿し。然れども毒の胸背に聚まりて、喘鳴咳嗽し、胸膈項背共に痛む者の如きに至れば、此の方勝れりと為す。 ○淡飲、疝チョウ、心胸痞塞し結痛し、痛み項背臂膊に連なる者を治す。或いは湯薬其の宜しきに随い、此の方を以って兼用と為すも、亦良し。 |
大陥胸丸 結胸し、項背強ばる者を治す。 大黄 八両 テイレキ子 半升 芒消 半升 杏仁 半升 右四味、二味を杵きて篩い、杏仁芒消を内れ、合わせ研し脂の如くす。散に和して、弾丸の如き一枚を取る。別に甘遂を擣きて末とし、一銭ヒを、白蜜二合と水二升にて、煮て一升を取り、温めて之を頓服す。蜜一勺、水一合にて、薬末一銭を煮て、六勺を取る。一宿にて及ち下る。如し下らざれば、更に服す。下るを取るを効と為す。「禁んで薬法の如くす。」 |
罌(オウ)=かめ 畜蔵(チクゾウ)=たくわえ、おさめる 理中(リチュウ)=理中丸のこと、人参湯の丸剤 抵當(テイトウ)=抵當丸のこと 臂膊(ヒハク)=臂はかいなで上腕、膊は下腕 |
擣篩(トウサイ)=つきてふるい、細かくして 如(も)し |
玉函に、黄連ニ両に作る。今之に従う。 小児胸骨突起、亀胸と稱す者を治す。紫円、或いは南呂丸を兼用す。 小結胸病、玉函、千金翼、皆小結胸者に作る。是なり。 |
「結胸」の者、項も亦強ばり、「柔痙」状の如く、之を下せば則ち和す。 小陥胸湯 小結胸の者を治す。 黄連 一両 六分 半夏 半升 一銭八分 括ロウ実 大なる者 一個 八分 右三味、水六升を以って、先ず括ロウを煮て、三升を取り、滓を去り、諸薬を内れ、煮て二升を取る。滓を去り、分温三服す。水一合八勺を以って、先ず煮るに括ロウ実、九勺を取り、二味を内れ、煮て六勺を取る。 「小結胸」病、正に心下に在り、之を按ずれば則ち痛み、脈浮滑の者、 |
寒実結胸、熱症無き者とは、白散の正症なり。按ずるに、寒実結胸以下は、上文と意義相属さず。疑うらくは錯簡ならんや。且つ白散と小陥胸湯、其の主治は本より同じからず。豈濫投すべけんや。若し錯簡に非ずんば、其れ後人の補綴に出づるや疑いなし。五苓散標を、参看すべし。 世に所謂痰労、咳嗽胸満にして痛み、或いは胸肋肩背攣痛し、粘痰或いは唾血する者、此の方に宜し。当に胸満、脇背攣痛を以って |
○「病陽に在り、応に汗を以って之を解すべし。」反って冷水を以って之にソンす。若し之を灌げば、その熱はゴウ(キョウ)を被り、去るを得ず。彌よ更に益すに煩し、肉上粟起し。意(おもう)に水を飲まんと欲し、反って渇せざる者は、文蛤散を服すに、若し差えざる者は、五苓散を与う。「寒実結胸、」熱證無き者は、三物小陥胸湯を与う。白散も亦服すべし。 枳実薤白桂枝湯 胸痺、胸腹満痛、上逆する者を治す。 枳実 四枚 厚朴 四両 各七分 薤白 半升 一銭四分 |
濫投(ラントウ)=みだりに投ずる 補綴(ホテツ)=補いを書き込む、つづり加える |
灌(ソソ)ぐ=流しかける 彌(イヨイ)よ 肉上粟起(ニクジョウゾクキ)=とりはだ 文蛤(ブンゴウ)=はまぐり |
目的と為すべし。南呂丸、或いは姑洗丸を兼用す。 二方の症治同じは、古義に非ざるなり。説は人参湯標に詳し。 胸痺、心胸痛み背に徹す者、此の二方に非ずんば、治す能わず。下方に勝ると為す。症に随い姑洗丸を兼用す。眞心痛にて息を得られざる者は、以下二方を撰用べし。 |
南呂丸(ナンロガン)=滾痰丸(コンタンガン)=甘遂・大黄・黄ゴン・青蒙石 姑洗丸(コセンガン)=控涎丹(コウエンタン)=甘遂・大戟・白芥子 徹(テツ)=とおる、とおす |