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類聚方広義・第二木曜会  2013・6・13


酸棗仁湯 大陥胸湯
百十頁 裏
標注                                       類聚方
当に乾嘔の症有るべし。微煩も亦た虚煩なるのみ。






諸病久久愈えず、オウ困憊、身熱寝汗、セイチュウし寐れず、口乾き喘嗽、大便溏、小便渋、飲啖味無き者、此の方に宜し。證に随い黄耆、麦門冬、乾姜、附子等を選加す。○健忘驚
梔子 十四枚 乾姜 ニ両 各一銭五分、
右二味、水三升半を以って、煮て一升半を取り、滓を去り、分かちて二服とし、温めて一服を進む。水一合四勺を以って、煮て六勺を取る。「吐を得る者は、後服を止む。」
「傷寒、医丸薬を以って大いに之を下し、」身熱去らず、微煩の者、


酸棗仁湯
煩躁し眠を得られざる者を治す。
酸棗仁 二升 
二銭四分 甘草 一両 一分 知母 茯苓 キュウキュウ ニ両 二分

百十頁 裏 解説
標注                                            類聚方
オウ(オウルイ)=痩せてひ弱な体質
セイチュウ=むなさわぎ、神経性心悸症、知覚過敏症など
丸薬=巴豆剤とされる

百十一頁 表
標注                                       類聚方
悸、セイチュウ三症、は、此の方宜しき者有り。症に随い黄連辰砂を選加す。
○脱血過多、心神恍惚、眩暈せず、煩熱盗汗、浮腫を見わす者は、此の方に合わすに当帰芍薬散に宜し。
東洞先生一病人、昏昏と醒めず死状の如く、五六日に及ぶ者を治すに、此の方を用い速やかに効有り。圓機活法と謂うべけんや。説は薬徴に詳し。

東洞先生曰く、正に千金大陥胸丸に従い、大黄八両芒消五両に作るべし。正木政幹の曰く、
右五味、水八升を以て、酸棗仁を煮て、六升を得る。諸薬を内れ、煮て三升を取り、分温三服す。水一合六勺を以って、先ず酸棗仁を煮て、一合二勺を取り、諸薬を内れ、煮て六勺を取る。
「虚労、」虚煩して眠るを得られざる、
為則按ずるに、虚煩は、当に煩躁に作るべし。

大陥胸湯
結胸し、心下従り少腹に至り、硬満して痛みて、近ずくべからざる者を治す。
大黄 六両 
一銭六分 芒消 一升 一銭 甘遂 一銭 三分

百十一頁 表 解説
標注                                            類聚方
辰砂(シンシャ)=天然の硫化水銀・鎮静、安眠、抗不安薬として用いられた
寐(ビ)す=ねる
圓機活法(エンキカッポウ)=臨機応変に対応する

正木政幹(マサキマサモト)=1814年、度量衡に関し薬性歌括(ヤクセイウタククリ)を著す
近ずくべからざる者=痛みを伴う急病で人が近づくことも出来ないことか?

百十一頁 裏
標注                                       類聚方
一銭は今一匁なり。今二説を裁酌し、以って分量を定むは、是れ余の親験する所なり。

肩背強急し、言語能わず、忽然と死す者を、俗に早打肩と称す。急いでハ針を以って放血し、此の方を与え俊瀉を取れば、以って一生を九死に回すべけんや。

右三味、水六升を以って、先ず大黄を煮て、二升を取り、滓を去り、芒消を内れ、煮て一両沸し、甘遂末を内れ、温服一升。水一合八勺を以って、大黄を煮て六勺を取り、滓を去り芒消を内れ、消せしめ、甘遂末を内れ、之を服す。「快利を得れば後服を止む。」
「太陽病、脈浮にして動数、浮は則ち風と為し、数は則ち熱と為す。動は則ち痛と為し、数は則ち虚と為す。頭痛発熱し、微しく盗汗出で、反って悪寒する者は、表未だ解せざるなり。医反って之を下し、動数は遅に変じず。膈内拒痛、胃中空虚、客気膈を動かす、」短気躁

百十一頁 裏 解説
標注                                            類聚方
裁酌(サイシャク)=意味を汲んで裁定する
早打肩(ハヤウチカタ)=急に死ぬような病気、脳障害や心筋梗塞など
俊瀉(シュンシャ)=急いで腹のものを出す、下利をさせる
大陥胸湯の煎じ方と服用法=水の分量は煎じた後に服用可能な量を考え定める。大黄を入れて三分の二まで煎じつめる。大黄の滓を取り去った薬液に芒消を入れて溶かす。芒消が溶けたら甘遂の粉末を入れて服用する。

百十二頁 表
標注                                       類聚方
若し結胸せず云云、身必ず黄を発すなりの下に、茵チン蒿湯之れ主どるの六字脱す。茵チン蒿湯の條を参看すべし。
結胸熱実は、白散の寒実結胸と、正に相反す。而して各其の治を殊にする。則ち此の語は削るべからざるに似る。
煩、心中懊ノウ、陽気内陥、心下因って硬く、則ち「結胸」を為す。大陥胸湯之を主どる。若し「結胸」せず、但頭汗出で、餘所に汗無し、剤頚して還り、小便不利、身に必ず黄を発すなり。
○「傷寒、六七日、結胸熱実、」脈沈にして緊、心下痛み、之を按ずるに石硬の者、
○「傷寒、十餘日、熱結して裏に在り、」復往来寒熱の者、大柴胡湯を与う。「但結胸し大熱無き者は、此れ水結胸脇に在るなり。」但頭に微し汗出ず者は、大陥胸湯之を主どる。
○「太陽病、」重ねて汗を発し、復

百十二頁 表 解説
標注                                            類聚方
白散(ハクサン)=桔梗白散

百十二頁 裏
標注                                       類聚方
日哺所少しく潮熱有りの下、千金方に、心胸大いに煩を発すの五字有り。
脚気冲心、心下石硬、胸中大煩し、肩背強急、短気し息するを得ざる者、産後血暈、及び小児の急驚風、胸満して、心下石硬、咽喉痰潮、直視痙攣、胸動奔馬如き者、眞心痛、心下硬満、苦悶し死選と欲する者、以上諸症は、治法神速、方剤駿快に非ずんば救う能わず。此の方に宜し。是れ摧堅応変の兵、用うに能く其の肯綮を得て、而して樞機を執るに在るのみ。
之を下す。大便せざるに五六日、舌上躁して渇、日哺所小し潮熱有り、心下従り少腹に至り、硬満して痛み、近づくべからざる者、
○「傷寒、五六日、」嘔して発熱の者、柴胡湯證具わる。他薬にて之を下すを以って、柴胡證仍を在る者は、復柴胡湯を与う。此れ巳に之を下すと雖も、逆と為さず。必ず蒸蒸として振るい、卻て発熱汗出でて解す。若し心下満して硬痛の者、「此れ結胸と為すなり。」大陥胸湯之を主どる。但満して痛まざる者、「此れ痞と為し、」柴胡之に与うに中たらざず、半夏瀉心湯に宜し。

百十二頁 裏 解説
標注                                            類聚方
摧堅(サイケン)=硬いものをくだく
肯綮(コウケイ)=物の要所・骨と筋肉の結合したところ
樞機(スウキ)=物事の肝要なところ
日哺所(ニッポショ)=夕方
潮熱(チョウネツ)=満ち潮のように次第に熱が高くなること
他薬(タヤク)=丸薬と同じく巴豆剤のこととされる

百十三頁 表
標注                                       類聚方
此の方、余の家は大黄八銭、テイレキ杏仁各六六銭、消石十銭、甘遂六銭末と為し、煉蜜に和し、麻子大に丸め、

百十三頁 表 解説
標注                                            類聚方

薬徴の酸棗仁について
吉益東洞は薬徴を著しますが七たび稿を書き改めたと言われています。
東洞門人の村井椿寿(肥後の村井大年)は続薬徴を著し、南涯も薬徴を追補したものを著し当時の医療従事者に多大の影響を与えました。
尾台榕堂は薬徴に書かれてある東洞の真意を崩さぬよう重校薬徴を書き残します。
重校薬徴は薬徴七部作、何れかの東洞結語と思われる箇所を吸取して書かれています。
大塚敬節氏の薬徴に見られない部分を赤字↓で標示し、類聚方広義標柱(百十一頁表青字の部分↑)の説明とします。

重校薬徴・酸棗仁


酸棗仁(サンソウニン)
クロウメモドキ科 サネブトナツメの成熟種子
成分:ベツリン酸 ジュジュポシドA、B(サポニン)
効能:鎮静・安眠・精神安定・止汗


甘遂(カンツイ・カンスイ)
トウダイグサ科 カンスイの肥大根 日本では近縁のナツトウダイを代用とした
成分:有毒のカンスイニンA、B
効能:瀉下、利尿作用が有り浮腫などに用いられたが強い作用は毒性がある

ナツトウダイの地上部


ナツトウダイの花


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