類聚方広義・第二木曜会 2012・3・8
下オ血湯・抵當湯
下オ血湯に、乾漆ニ両を加え、蕎麦粉にて丸と為し、小児疳疾、癖塊、諸薬効無く、羸痩腹満、飲食を欲せず、面身痿黄浮腫、唇舌刮白、或は殷紅、皮膚索澤、巨里跳動、黄胖の如く、兼ねてユウ虫有る者を治す。奇効有り。乾漆は黒色にして光亮の者を、佳と為す。○此の方、本草綱目シャ虫の條、大黄シャ虫丸と稱す。曰く産後の腹痛にて、乾血有る者を治すと。又大観本草の、シャ虫の條に、亦大黄シャ虫丸と稱し、曰く久カ積結を主さどると。按ずるに、此れ本は丸方にて、湯方に非ざるなり。其の制は亦抵当丸と相似て、則ち丸と稱して當と為す。其れ下オ血と稱すは、疑うらくに後人の方功を以って之を号せん。猶陥胸備急の類のごときのみ。又倪朱謨の本草彙言に曰く、仲景方に、五労虚極羸痩、腹満して飲食能わずは、内に乾血有りて、肌膚甲錯する者を治す。乾漆大黄各一両、シャ虫十個、酒にて煮るに半日、搗きて膏とし丸と為す。黍米大を、毎服十丸、白湯にて送下す。此れを金匱の大黄シャ虫丸に比べれば、薬味寡なくして効力専らなり。以って後人の截酌と雖も、簡捷にして効有るや。 徐霊胎の曰く、新の字は当にオの字に作るべしと。按ずるに、新血は疑うらくに乾血の誤りならんや。○ |
下オ血湯 臍下毒痛、及び経水不利の者を治す。 大黄 ニ両 四銭 桃仁 二十枚 シャ虫 二十枚 右三味、之を末とし、煉蜜に和し四丸と為し、酒一升を以って、一丸を煮て八合を取り、之を頓服す。酒八勺を以って、一丸を煮て六勺を取る。新血下るに豚肝の如し。 |
蕎麦(キョウバク)=ソバ 小児疳疾=〔虚弱児童〕 癖塊(ヘキカイ)=永く治らない塊〔永く治らない結核〕 羸痩(ルイソウ)=痩せ衰える 痿黄(イオウ)=貧血を伴った黄色 刮白(かつはく)=削られたように白い 殷紅(アンコウ)=黒ずんだ赤色 索澤(サクタク)=光沢の無いつや 巨里(コリ)=胸の周り 黄胖(オウハン)=〔十二指腸虫などによる貧血で青白くなること〕 【黄胖病】=さかのしたという病名がつけられた貧血性疾患 ユウ虫=蛔虫 乾漆(カンシツ)=大黄シャ虫丸の中に乾漆が配剤される〔湯本求真は古い漆を蕎麦粉で練って虫下しによく使ったとのこと!〕 乾血(カンケツ)=動きの悪くなった古い血液 制(セイ)=製造法 方功(ホウコウ)=処方の成り立ちと効能 倪朱謨(ゲイシュモ)=明代の人・著書に本草彙言 横田本引用 甲錯(コウサク)=硬くて艶が無いざらざらした 黍米(シャベイ)=キビ・モロコシ 截酌(セツシャク)=手加減を加え工夫して作りあげる 簡捷(カンシャウ)=てっとりばやい 徐霊胎(ジョレイダイ)=清代の医学者 |
下オ血湯=かおけつとう シャ虫=サツマゴキブリの一種 |
産後、腹中結実拘攣、或は煩満して痛む者は、当に枳実芍薬散を用い、之を和すべし。若し癒えざる者は、其の人必ず乾血有るなり。下オ血湯に宜し。乾血は、久オ血なり。按ずるに、呉程沈三本は、皆大黄三両に作る。 婦人経水不利の者、棄置し治せざれば、後に必ず胸腹煩満、或は小腹硬満、喜餓、健忘、悲憂驚狂等の症を発す。或は偏枯、タンカン、労サイ、鼓脹、膈噎等の症を醸成し、遂には不起に至る。早く此の方を用い血遂を通暢し、以って後患を防ぐべし。 |
「師の曰く、産婦、」腹痛、「法当に」枳実芍薬散を以って、仮令愈えざる者は、此れ腹中に乾血有りて臍下に著しと為す。宜しく下オ血湯之を主どるべし。亦経水不利を主どる。 抵當湯 オ血の者を治す。凡そオ血有る者に二なり、少腹硬満し、小便快利の者、一なり。腹痛まず、其の人我が満すと言う者、二なり。急ぐは則ち湯を以って、緩するは則ち丸を以ってす。 水蛭 三十個 ボウ虫 三十個 桃仁 二十個 各四分 大黄 三両 一銭二分 右四味、末と為し、水五升を以って、煮て三升を取る。滓を去り、 |
乾血(カンケツ)=動きの悪くなった古い血液 呉程沈(ゴ テイ シン)=3人の医学者 呉謙(医宗金鑑) 程林(金匱要略直解) 沈明宗(金匱要略編注=横田本引用) 棄置(キチ)=すておいて、なおざりにして 喜餓(ゼンキ)=むさぼり食べる 悲憂(ヒユウ)=悲しみ憂う 偏枯(ヘンコ)=中気 タンカン=半身不随 労サイ=肺結核 鼓脹(コチョウ)=腹の張る病気 膈噎(カクイツ)=癌などが原因で食物が入らない 血遂(ケッツイ)=血が原因の流れ・血の道 通暢(ツウチョウ)=通し流す |
水蛭=水に住むヒル ボウ虫=アブ |
外臺、千金、倶に末と為すの二字無し。是なり。 腹満せず、其の人我が満と言う者とは、此れ特だ血塊のみならず、而るにオ血専ら絡に在るの症なり。之を於いて其の症に験するに、則ち自ずから之を知る。子柄の、『心下痞し之を按ずるに濡、腹満せず、其の人我が満と言う者と、症に於いて則ち同じく、方に於いては則ち異なる。男子は必ず三黄丸、婦人は則ち浮石丸、抵当丸』と云うは、誤れり。心下痞と、オ血壅滞と、豈同症ならんや。況や二方の之主治する所は同じからず。而して方用も亦此の如く拘泥すべからざらんや。 オは、説文に曰く、『積血也』と。 |
一升を温服す。水一合を以って、煮て六勺を服す。「下らざずは再び服す。」 「太陽病六七日、表證仍り在りて脈微にて沈は、反って結胸せず、」其の人狂を発すは、「熱の下焦に在りて、」少腹当に硬満すべし。小便自利の者は、血下り及ち癒ゆ。「然る所以の者は、太陽の経に随い、オ熱裏に在るを以っての故なり。」 ○「太陽病、」身黄にて脈沈結、少腹コウ、小便不利の者、血無しと為すなり。小便自利、其の人狂の如き者は、血證諦かなり。 ○「陽明病、」其の人喜忘の者、必ず畜血有り。「然る所以の者は、本久オ |
喜忘(キボウ)=よく忘れる |
打撲折傷、オ血凝滞、心腹脹痛、二便不通の者、経閉、少腹硬満、或は眼目赤腫、疼痛、瞻視能わざる者、経水閉渋、腹底にチョウ有り、腹皮に青筋の見ゆる者、併せ此の方に宜し。若し煮服能わざる者は、丸と為し、温酒を以って送下するも、亦佳し。 金匱小註に曰く、『亦男子の膀胱満急にして、オ血有る者を治す』と。 余家にて此の方を用うるに、右四味を取り、末と為し煉蜜に和し、八丸と為し、温酒を以って、咀嚼して下す。日に二丸を服し、四日にて服し尽くす。酒服能わざる |
血有り。故に喜忘せしむ。」屎硬きと雖も、大便反って易く、其の色必ず黒し、 ○病人、「表裏の證無く、」発熱七八日、脈浮数の者と雖も、之を下すべし。仮令巳に下し、脈数にして解せず、合熱するは則ち消穀善キす。六七日に至り大便無き者は、オ血有り。 ○婦人、経水利下せず、抵當湯之を主どる。 抵当丸 水蛭 二十個 桃仁 二十個 大黄 三両 六銭 |
瞻視(センシ)=ものを見る 余家(ヨカ)=尾台家 |