類聚方広義・第二木曜会  2012・2・9


大黄牡丹皮湯・大黄甘遂湯

八十二頁 裏
標注                                       類聚方
其の死を見るのみ。故に若し斯くの症に遭えば、二便の利不利を問わずして、早く此の方を用い、以ってオ滞を駆し、熱閉を解けば、則ち凝腫溺閉に至らず、是最上の乗法と為す。且つ打処に直にハ針を以って軽軽に乱刺し放血するを、佳しと為す。
○大黄牡丹皮湯は、諸癰疽疔毒下疳便毒淋疾痔疾臓毒瘰癧流注、陳久の疥癬結毒瘻瘡、無名の悪瘡にて、膿血盡きず、腹中凝閉す。或は塊有りて、二便利せざる者を治す。症に随って伯州散、七寶丸、十幹丸等を兼用す。結毒瘻瘡、沈滞して動かざる者は、七寶、或は十幹を、法の如く之に用いる。其の間は湯薬を停む。或は薫薬を用う。薫薬を用う者も、亦然り。用い畢りて後に、咽口腐爛甚だしき者は、瀉心湯、調胃承気湯等を以って、残毒を疏滌し、且つ含嗽剤を用いるを、佳しと為す。
○産後、悪露下らず、小便不利、血水壅遏し、少腹満痛、通身浮腫、大便難なる者を治す。又産後、悪露盡きず、数日を過ぎ、寒熱交差、脈数




大黄牡丹皮湯
臍下に結毒有り。之を按ずるに即ち痛し。及び便膿血の者を治す。
大黄 四両 
八分 牡丹皮 一両 六分 桃仁 五十個 五分 瓜子 半升 八分 芒消 三合 九分
右五味、水六升を以って、煮て一升を取り、滓を去り、芒消を内れ、再び煎沸す。之を頓服す。
水二合八勺を以って、四味を煮て六勺を取り、滓を去り、芒消を内れ、消せしめ服す。


八十二頁 裏 解説
標注                                            類聚方
ハ針(ヒシン)=先の尖ったメス・三稜鍼
癰疽(ヨウソ)=カルブンケルを含む化膿性炎症疾患
疔毒(チョウドク)=フルンケル、化膿性球菌による炎症疾患で痛みが強い
下疳(ゲカン)=陰部に発生する梅毒性の潰瘍
便毒(ベンドク)=横根とも称され梅毒性のリンパ腺腫、小便と関係ある病気とされる
淋疾(リンシツ)=淋病のこと、伝染性で陰部粘膜や尿管粘膜がただれる
痔疾(ジシツ)=痔で肛門周囲がただれる
臓毒(ゾウドク)=排便時に膿血を伴う。直腸癌や潰瘍性大腸炎で塩辛状の臭い便
瘰癧(ルイレキ)=リンパ腺腫や腫瘤
流注(ルチュウ)=寒性膿瘍、ソケイ部に塊が出来て膿潰する
結毒(ケツドク)=第二期及び第三期梅毒のこと、全身性梅毒
瘰癧(ルイレキ)=リンパ系に腫れを生ずる病気、膿潰まで至らないもの
疥癬(カイセン)=伝染性皮膚病でかゆみを伴う発疹や潰瘍
瘻瘡(ロウソウ)=第三期性梅毒による皮膚化膿疾患
薫薬(クンヤク)=軽粉を熱し水銀を昇華させて患部を治療
瓜子(カシ)=ウリ科、トウガンの成熟種子、清熱化痰、排膿の効能がある



八十三頁 表
標注                                       類聚方
急、小腹或は腰痛み激しき者は、癰を発すの兆しなりて能く病の情機
を審らかにして、早く此の方を用い之を下すべし。巳に膿潰の者も、亦此の方に宜し。
○経水不調、赤白帯下、赤白痢疾、小腹凝結、小便赤渋、或は水気有る者を治す。
○按ずるに、瓜子の充実の者、一合強、今秤するを以って、之を量るに十六銭を得る。則ち一升は漢の八両なり。


按ずるに、大黄甘遂湯、抵当湯とは、皆小腹満する者を主どるなり。抵当湯症は、硬満して小便自利、此の方症は、小腹膨満し、

膿有るは当に下るべし。如し膿無くば当に血下るべし。
「腸癰の者、」小腹腫痞、之を按ずるに即ち痛むこと淋の如く、小便自調、時時発熱、自汗出で、復悪寒す。「其の脈遅緊の者、膿未だ成らず。之を下すに、当に血有るべし。脈洪数の者は、膿巳に成る。下す下からざるなり。」
為則按ずるに、千金方に、牡丹皮三両、瓜子一升、芒消ニ両なり。瓜子一升は、今当に十両なるべし。

大黄甘遂湯
小腹満、敦状の如く、小便微難、

八十三頁 表 解説
標注                                            類聚方
帯下(タイゲ)=こしけ、子宮粘膜炎、膣粘膜からの分泌が多い症状


八十三頁 裏
標注                                       類聚方
而して甚だしく硬からず、小便微し難、斯く以って血と水血の結滞との異なりを見るべしや。
○此の方は、特だ産後のみならず、凡そ経水不調、男女のリュウ閉、小便満痛の者、淋毒沈滞し、微淋、小腹満痛し、忍ぶべからざず、膿血を洩らす者、皆能く之を治す。

状の如きとは、小腹高起し、形如く、而して急結せず、硬満せざる者なり。の音は對、器の名。禮明堂位に曰く、有虞氏両敦。鄭注に曰く、黍稷を盛る器。周禮天官に曰く、珠盤玉敦。鄭注に曰く、敦は、盤の類、古くは盤を以って血を盛り、敦を以って食を盛ると。
○子柄の曰く、此の方は甘遂半夏湯と、同症にして小異なり。婦人は則ち此の方、男子は則ち甘遂半夏湯。夫れ甘遂半夏湯は、心下堅満を主さどり、此の方は小腹満を主さどる。敦状の如きに、同じく甘遂を用うと雖も、其の症と、其の部位の、本は自ずと天淵にして、何ぞ混同すべけんや。且つ症に随って方を處すに、豈男女を問わんや。子柄は特(ただ)に、薬方の主治を知らざる、のみならず、又膠柱の説を為すは、誤りと謂うべけんや。
或は経水不調の者を治す。
大黄 四両 
一銭四分 甘遂 阿膠 各ニ両 七分
右三味、水三升を以って、煮て一升を取り、之を頓服す。
水一合八勺を以って、煮て六勺を取る。其の血当に下るべし。
「婦人、」小腹満、敦状の如く、小便微しく難、而して渇せず、「生後の者、此れ水は血と倶に結びて血室に在ると為すなり。」

八十三頁 裏 解説
標注                                            類聚方

敦(タイ)=厚手の土鍋・食物を入れる盤上の器
禮明堂位(ライミョウドウイ)=禮記明堂位
有虞(ウグ?)=?
黍稷(ショショク)=モチキビとウルチキビ、稷とはコウリャンのこと
鄭注(テイチュウ)=周禮の鄭玄による注
周禮天官(シュライテンカン)=周禮の天官編
天淵(テンエン)=天と地、へだたりがあること
膠柱(コウチュウ)=固定して変化や進展が無い
甘遂(カンズイ)=トウダイグサ科、カンズイの根、通便逐水作用があり有毒


冬瓜子 トウガシ
ウリ科 トウガンの成熟種子
効能:清熱化痰、排膿作用



甘遂 カンズイ
トウダイグサ科 カンズイの根を使用
効能:通便、逐水の効能があるが毒性が強い。浸出性肋膜炎の胸水、肝硬変の腹水、腎炎の浮腫などに使うことがある。
激しい瀉下作用や利尿作用があるため注意が必要。

中葯大辞典より

トウダイグサ科の近縁植物に大戟(タカトウダイ)、沢漆(トウダイグサ)、続随子(ホルトソウ)がある。

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