類聚方広義・第二木曜会  2011・9・8


大承気湯の標注(七十二頁裏)より

七十二頁 裏
標注                                       類聚方
脚気症、其の人胸中跳動し、心下堅、短気し腹満、便秘して脈数の者、假饒其の状緩症に似るも、決して軽視すべからず。必ず不測の変有り。早く此の方を用い以って鬱毒を逐除すれば、則ち大患に至らずして治る。を執る者は忽諸す勿れ。

傷寒、若しくは吐し若しくは下した後云云は、大承気湯の激しき症なり。
成無已の曰く、潮熱は、潮水の潮、其の来たるに其の時を失せざるなり。一日一発、時を指し而して発する者、之を潮熱と謂う。若し三五発する者は、即ち是潮熱に非ざるなり。此の説は是なり。但其の発するに必ず
転失気せざる者は、此れ但初頭硬く後必ず溏す。之を攻むべからず。之を攻めれば必ず脹満し、食する能わざるなり。水を飲まんと欲する者に、水を与えば則ちエツす。其の後に発熱する者は、必ず大便復硬きにして少なきなり。小承気湯を以って之を和す。転失気せざる者は、慎みて之を攻むべからざるなり。
○「傷寒、」若しくは吐し若しくは下した後、解せず、大便なきに五六日、上っては十餘日に至る。日哺所潮熱を発し、悪寒せず、独語し、鬼状を見るが如く、若し激しき者は、発するに人を識さず、循衣摸牀、タして安からず、微喘し直視す。「脈弦なる者は生きる。ショクなる者は死す。微の

七十二頁 裏 解説
標注                                            類聚方
假饒(カジョウ)=仮に多く豊かに
ヒ=匙(サジ)
忽諸(コツショ)=なおざり
日哺所(ニッポショ)=夕方
循衣摸牀(ジュンイモショウ)=病衣や布団の端をなでまわす


七十三頁 表
標注                                       類聚方
日哺時に於いてなり。
○直視とは、目光直にして、転動せざるなり。
○陽明病、譫語して潮熱有り。反って食する能わず云云の、反の字は衍なり。一説に、反を煩に作るべし。音近きに因って誤る。牽強に似る。蓋し不の字も衍なり。復誤りて反に作るのみ。
痘瘡、麻疹、悪熱腹満、煩躁し譫語す。黒胎燥裂、大便せずして渇す。或は自利臭穢の者、死は須臾に在り。此の方に宜し。
萎躄、腹中に堅塊有り。便秘口燥し、脈實にて力有る者は、此の方に非ずんば治す能わざるなり。附子湯、真武湯等、交替互用するも、亦佳し。
者にて、但発熱し、」譫語する者は、大承気湯之を主どる。「若し一服にて利せば、後服を止どむ。」
○「陽明病、」譫語し潮熱有り。反って食すること能わざる者は、「胃中必ず、」燥屎「五六枚」有るなり。若し能く食する者は、但硬きのみ。
○汗出でて譫語の者、燥屎有りて「胃中に在るを以って、此れを風と為すなり。」之の下るを須ちて、「過経及ち之を下しべし。之を下すに若し早ければ、語言必ず乱る。表虚裏實を以っての故なり。之を下せば則ち癒える。」
○「三陽併病、太陽證罷み、」但潮熱を発し、手足チュウチュウと汗出で、大便難にして譫語の者、之を下せば則ち癒える。
○「陽

七十三頁 表 解説
標注                                            類聚方
日哺時=日哺所=夕方、午後4時頃
睛(セイ)=ひとみ
衍(エン)=はびこった間違い
牽強(ケンキョウ)=無理にこじつける
萎躄(イヘキ)=足のなえる病、いざり
交替(コウタイ)=かわり番こ

七十三頁 裏
標注                                       類聚方
陽明病、之を下し、心中懊ノウして煩し云云は、梔子湯症に相似る。而して其の別は煩すや虚煩すやと、燥屎有ると否とに在り。脈状も亦虚実の異なり無かからず。病に@むの士、能く其の腹症脈状を観て、以って其の処方を断ずべし。
病人、煩熱汗出で則ち解す云云、説は桂枝湯標に見ゆ。

病人小便不利云云、此れ裏熱が躁屎に結び、故に小便不利と雖も、大便乍難く乍易し。
明病、」之を下し心中懊ノウして煩す。「胃中」燥屎有る者は、攻むべし。腹微満し初頭硬く、後必ず溏す。之を攻めるべからず。燥屎有る者、
○病人、煩熱は汗出れば則ち解す。又虐状の如く、日哺所発熱の者、「陽明に属すなり。脈實の者、宜しく之を下すべし。脈浮虚の者は、宜しく発汗すべし。之を下すに、大承気湯を与え、発汗するに、桂枝湯に宜し。」
大いに下した後、六七日大便せず、煩して解せず、腹満痛の者、此れ燥屎有るなり。「然る所以の者は、本宿食有るが故なり。」
○病人、小便不利、大便乍(たちまち)難

七十三頁 裏 解説
標注                                            類聚方


七十四頁 表
標注                                       類聚方
溏泄に至らざるなり。其の時に微熱有る者は、裏熱隠然と表に見ゆるなり。喘冒し臥する能わざる者は、裏熱上撞し然らしむなり。此の症脈多く沈滑、或は沈遅、舌色赤くして光亮、或はタイ刺起こり而して渇するなり。

五六日は、本論に六日に作るは、誤りなり。今之を正す。

目中了了たらずは、眼睛モウにて慧然せざるなり。金匱驚悸の篇に曰く、目睛慧了、以って證すべしや。
乍(たちまち)易し。時に微熱有り。喘冒し臥す能わざる者は、燥屎有るなり。
○病を得て二三日、脈弱、「太陽」柴胡の證無く、煩躁し心下硬く、四五日に至り、能く食すと雖も、小承気湯を以って、少少与え、之を微和し、小安せしむ。五六日に至り、承気湯一升を与え、若し大便なきに六七日、小便少なき者、能く食さずと雖も、但初頭硬く、後必ず溏す。未だ定まりて硬く成らずとも、之を攻めれば必ず溏す。小便を利し、屎定硬するを須ちて、及ち之を攻めるべし。大承気湯に宜し。
○「傷寒、六七日、」目中了了たらず、晴和せず。「表

七十四頁 表 解説
標注                                            類聚方
溏泄(トウセツ)=やわらかくもれる
上撞(ジョウトウ)=上ってつく
光亮(コウリョウ)=明るくあきらかに
モウ瞳(モウトウ)=あきめくら、道理を分別することが出来ない
慧然(ケイゼン)=かしこいさま、さといさま


七十四頁 裏
標注                                       類聚方
陽明病、発熱汗多き者は、急いで之を下すは、巳に陽明病にて、之に加うるに多汗発熱し、其の津液枯竭し、以って躁屎譫語の険症に馴致するに、立ちて待つべしや。其の機を失うべからず。故に急いで之を下すなり。発熱して汗多きと雖も、若しくはに悪寒する者は、更に発汗すべし。
○凡そ急いで之を下し急いで之を温め、急いで之を救うと曰うは、皆一時の急を救うなり。
○本論に急いで之を下すと云うは、凡そ六條にて、其の見症(見わす症)は、皆一二に過ぎざるなり。然れども於斯に制せざれば、則ち必ず危険競起し、災いは不測に出でるに、而して復如何ともすべからざるなり。故に急いでと曰く、以って其の緩治すべからざるを示し、
裏證無く」大便難、身微熱の者、「此れ實と為すなり。急いで之を下せ、」
○「陽明病、」発熱汗多き者は、急いで之を下す、
○腹満減ぜず、減ずるに言うに足らざるは、当に之を下す、
○「陽明少陽合病、必ず下利す。其の脈負ならざる者は順なり。負之者は失なり。互相剋賊を名づけ負と為すなり、脈滑にして数なる者は、宿食有るなり。当に之を下すべし、」
○「少陰病、」自利C水、色純青、心下必ず痛み、口乾燥

七十四頁 裏 解説
標注                                            類聚方
枯竭(コカツ)=かれつきる
仍(シキリ)=そのうえに、しきりに
於斯(オシ?)=


七十五頁 表
標注                                       類聚方
大承気湯を用いる所以なり。機に応じ変を制すは、医の要務にして、慎まざるべからず。
○C水のCは、セイと通ず。

痢疾、大熱腹満し、痛むに錐刺の如く、口舌乾燥し、或は破裂し、大便日に数十百行、或は便膿血する者を治す。
狂症、大言罵詈、昼夜眠らず、飲啖常を過ぎ、胸腹満し、大便通ぜざる者を治す。
疝積留飲にて、痛み忍ぶべからず、胸腹煩満し、心下堅硬、二便不利、或は時に黒物を吐下する者治す。
の者、急いで之を下す、
○「少陰病、六七日、」腹脹り大便せざる者は、急いで之を下す、
○下利、三部脈皆平、之を按じて心下硬き者は、急いで之を下す。
○下利、脈遅にして滑の者は、「内實なり、」利して未だ止まん欲せざる者は、当に之を下すべし、
○「問うて曰く、人病むに宿食有り、何を以って之を別つ。師の曰く、寸口の脈浮にして大、之を按じて反って渋、尺中も亦微にして渋、故に宿食有るを知る。当に之を下すべし、」
○下利し食を欲せざる者は、「宿食有るを以っての故なり、」当に之を下すべし、
○下利差えて後、其の年月日に至り、復発する者、病盡きざるが故なり。

七十五頁 表 解説
標注                                            類聚方
錐刺(スイシ)=きりで刺されたような
罵詈(バリ)=人をののしる
飲啖(インタン)=飲みものや水気の多い食べ物
疝積(センシャク)=痛みの有る疾患(胆石痛・腎石痛・胃痙攣など)
留飲=食べ物をもどす
黒物=血液が混ざるもの


七十五頁 裏
標注                                       類聚方
急驚風、心下堅、腹満口噤、肢体強急し、脈数實の者は、此の方に宜し。

噤は、説文に曰く。口を閉ざすなり。
カイは、説文に歯相切なり。程林、金匱直解に曰く、霊樞熱病篇齧歯、当に是をカイ歯の類とすべし。

破傷風、其の暴劇の者、体挙ぐるに強直、直視して語らず、胸腹ゴウ満、二便不利、其の死するは
当に下すべし。
○「下利し脈反って滑、当に去る所有るべし。之を下せば及ち癒ゆ、」
○病腹中満痛の者、「此れ實と為すなり。」当に之を下すべし、
○「脈雙弦にして遅の者は、必ず心下硬く、脈大にして緊の者は陽中に陰有るなり。以って之を下すべし、
○「痙の病為る、胸満口噤し、臥して席に著かず、脚攣急し、必ずカイす、」
○「問うて曰く、新産婦人に三病有り、一の者は痙の病、二の者は鬱冒の病、三の者は大便難、何の謂なり。師の曰く、新産血虚は、多いに汗出で、喜(しばしば)風に当たり、

七十五頁 裏 解説
標注                                            類聚方
急驚風=発熱を伴う引きつれ
歯相切=歯ぎしりか?


七十六頁 表
標注                                       類聚方
踵を旋さず。此の方以って一生を僥倖す。若し服する能わざる者は、紫円に宜し。
○平居便秘し、腹満上逆の者、或は酷暑に寒を冒し、或は鯨飲過食を為し、則ち眼目昏暗、赤脈四起、忽然と瞻視を失する者あり。急いで此の方を与え之を下すべくせば、速やかに癒ゆる。
病者飲食味無く、或は食中食後、頻に白沫を吐き、或はソウ雑刺胸、或は食物停觸、胸膈痛みを為し、或は食後悪心、懊悩して安からず、或は吐を得て反して快し、腹裏弦靭、而してチョウ塊有る者、膈噎の漸なり。若し其の精気未だ衰えず、疾苦深からざれば、厳として世事を絶ち、
故に痙を病ましむ。亡血に復汗し、寒多く、故に鬱冒せしむ。津液を亡し胃燥すが、故に大便難し。産婦鬱冒、其の脈微弱、嘔して食す能わず、大便反って堅し。但頭汗出ず、然る所以の者は、血虚し厥す。厥すれば必ず冒す。冒家にて解さんと欲せば、必ず多いに汗出ず。血虚下厥、狐陽上出を以っての、故に頭汗出る。産婦喜(しばしば)汗出ずる所以は、亡陰血虚にして、陽気独り盛んが、故に当に汗出で陰陽及ち復すべし。大便堅く、嘔して食す能わず。小柴胡湯之を主どる。病解し、能く食し、七八日更に発熱する者は、「此れを胃實と為す、」

七十六頁 表 解説
標注                                            類聚方
踵を旋さず(キビスをメグラさず)=短い時間のこと
僥倖(ギョウコウ)=思いがけない幸せ
祁(キ)=極や厳に同じ
赤脈=目の白い部分が充血した状態
瞻視(センシ)=瞻は魂と肉体のこと、見るものを認識する
ソウ雑刺胸=胸焼けで胸苦しい
停觸(テイショク)=もたれる
懊悩(オウノウ)=胸苦しい。痛みも無く吐き気も無いが気分が悪い
弦靭(ケンジン)=突っ張っている
膈噎(カクイツ)=癌疾
世事(セジ)=社会に係わる仕事


七十六頁 裏
標注                                       類聚方
酒色を慎み、専ら静養調攝し、此の方を以って弦靭を柔和して、チョウ結を削平し、灸をするに五椎より十四五椎に至り、而して怠らずせば、則ち大患に至らずして治すや。硝石大円、大黄硝石湯、亦選用すべし。調胃承気湯標を、参考すべし。
産後七八日云云、此の症にて脈實裏實、発熱煩躁、便閉譫語し、且つ小腹堅痛す。亦急結の比に非ずとも、大承気湯を用う所以なり。子柄の桃核承気湯症と為すは、未だ深考せざるのみ。
○脈経に、夜に至り即ち癒ゆの四字無し。是なり。

麻沸湯は、湯沸時の、泛
大承気湯之を主どる。
○「産後七八日、太陽證無く、」小腹堅満、此れ悪露きず、大便せず煩躁し発熱す。「切脈微實、」更に倍して発熱し、日哺時に煩躁する者は、食せず。食すれば則ち譫語し、夜に至りて即ち癒ゆ。大承気湯に宜しく之を主どる。「熱裏に在り、結して膀胱に在るなり。」


大黄黄連瀉心湯


七十六頁 裏 解説
標注                                            類聚方


七十六頁裏 標柱の五椎より十四五椎に灸をする部分


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