類聚方広義・第二木曜会  2011・4・14


小承気湯

六十七頁 裏
標注                                       類聚方








厚朴二両、疑うに三両の誤りか、余は常に三両を用う。
論衡四緯篇に曰く、更衣の室、臭きと謂うべしと。銭コウの曰く、貴人大便するに、必ず
右五味、水一斗五升を以って、煮て八升を取り、滓を去り、温服す。煮るに白虎湯の如くす。
「温瘧の者、其の脈は平の如く、」身に寒無く、但熱し、骨節疼煩して、時に嘔す、
為則按ずるに、当に煩渇衝逆の證有るべし。


小承気湯
腹満して大便き者を治す。
大黄 四両 
一銭二分 厚朴 二両 九分 枳実 三枚 九分 右三味、水四升を以って煮て一升二合を取り、滓を去り分

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六十七頁 裏 解説
標注                                            類聚方
論衡四緯=(ろんこうしき)・論衡という本のこと



六十八頁 表
標注                                            類聚方
服する所の衣を交換す。故に大便を称して更衣と曰う。
○傷寒、大便せざること云云、説は桂枝湯標に見ゆ。
○若し汗出こと多く、微しく発熱し、悪寒する者は、桂枝湯症なり。桂枝湯條を併せ考うべし。
○大満不通と雖も、而して未だ潮熱に至らざる、故に小承気湯を与え、以って之を和すは、是れ一時の制機の治のみ。故に与うと曰いて、之を主ると曰わず。子柄以って大承気湯症と為すは、誤りなり。且つ曰く、外症微しく発熱悪寒有りと雖も、已に微しと称す、亦何を拘泥すと、是れ亦誤りなり。凡そ発熱悪寒未だ去らざる者は、仲景氏未だ嘗て大小承気湯を用う者有らず。
温二服。水二合を以って、煮て六勺を取る。初め湯を服し、当に更衣すべし。爾らざる者は、盡 (尽) く之を飲む。「若し更衣する者は、之を服す勿れ。」
「傷寒、」大便せざるに六七日、頭痛熱有る者は、承気湯を与う。「其の小便清なる者は、知るに裏に在らず。及ち表に在るなり。当に須(すべか)らず発汗すべし。若し頭痛する者は必ず衄す。桂枝湯に宜し。」
○「陽明病、脈遅、」汗出ずと雖も、悪寒せざる者は、其の身必ず重く、短気腹満して喘し、潮熱有る者は、「此れ外解さんと欲す。裏を攻むべきなり。」手足愁然として汗出ず者は、此れ大便已に硬きなり。大承気


六十八頁 表 解説

標注                                            類聚方
制機=間に合わせ 更衣=貴人の大便をすること



六十八頁 裏
標注                                            類聚方
之を毫釐に失すれば、謬すに千里を以ってす。匕を執り病者に臨むに、慎まざるべけんや。又按ずるに、腹大満して通ぜずは、疑うに腹満して大便通ぜずの誤りならん。
○陽明病、潮熱し大便微しく硬き者は、大承気湯を与うべし、唯此の一語は、其の義明明たり。豈燥屎の有無に拘泥すべけんや。葢し大承気湯は本より燥屎一症を為して与奪せず。且つ燥屎を知らんと欲して、先ず小承気湯を与え、以って之轉失気を験するは豈法と云わんや。陋しく且つ拙と謂うべし。若し燥屎の有無を知らんと欲せば、則ち其の腹を診て、一按して決すべし。是れ吾が党の汲汲として腹候を講明する所以なり。硬からざる者以下は、取るに足らず。○
湯之を主る。若し汗多く、微しく発熱悪寒する者は、「外未だ解せざるなり。」其の熱潮せずば、未だ承気湯を与うべからず。若し腹大満し通ぜざる者は、小承気湯を与うべし。「微しく胃気を和し、大泄下せしむ勿れ。」
○「陽明病、」潮熱し大便微しく硬き者は、大承気湯を与うべし。硬からず者は、之を与うべからず。若し大便せざるに六七日は、恐らく燥屎有らん。之を知らんと欲すの法は、少し小承気湯を与え、湯腹中に入り、轉失気の者は、此れ燥屎有り。及ち之を攻むべし。若し轉失気せざる者は、此れ但初頭硬く後必ず溏す。之を攻むべからず。之を攻めば

六十八頁 裏 解説
標注                                            類聚方
毫釐=(ごうり)
謬す=(びょう)す・たがう
「失之毫釐、謬以千里」=僅かな間違いも時間が経てば大きくなるという諺
匕を執る=病者を診て薬をつくる人
燥屎=腸内に永くある便の塊
轉失気=おなら・屁
溏=鳥の糞のような便



六十九頁 表
標注                                       類聚方
陽明病云云、脈滑にして疾、是れは大承気湯症なり。脈経、千金、倶に小の字」無し。是と為す。因って承気湯を与う以下、後人の註文なり。削るべし。
子柄の曰く、畢竟大小気湯の二方は、本同症なり。若し芒硝を去れば、之を鈍刀に譬えるに、遂には用いべからざるのみ。甚だしきかな。子柄之方法を弁ぜざるなり。夫れ方に大小有るは、病に軽重と緩急有るを以ってなり。豈特だ大小の制にしてのみや(制なるのみならんや)。凡そ長沙の方に於けるや、一味の去加、一品の乗除と雖も、各其の旨義を殊にし、其の効用を異にせざるは無し。是の故に医の疾に臨むや、能く
必ず脹満し食す能わざるなり。水を飲まんと欲する者に、水を与えれば則ちエツす。其の後発熱する者は、必ず大便復硬くして少なし。小承気湯を以って之を和す。轉失気せざる者は、謹んで攻むべからずなり。○「陽明病、其の人汗多く、津液外出し、胃中燥くを以って、」大便必ず硬き。硬ければ則ち譫語す。小承気湯之を主る。若し一服にて譫語止めば、更に復服すること莫れ。○「陽明病、」譫語し潮熱を発し、脈滑にして疾の者は、小承気湯之を主る。因って承気湯一升を与え、腹中轉失気の者は、更に一升を服す。若し轉失気せざるは、


六十九頁 表 解説
標注                                            類聚方

脈滑=滑脈、転がるような滑らかな脈状



六十九頁 裏
標注                                       類聚方
其の軽重緩急を審らかにし、症を観るにシン密にし、方を処すに精到し、能く長沙の矩度に合し、施設を謬せずば、(而して)後の治は得て期すべきのみ。若し心武断にして、軽試マン投し、以って其の治を僥倖し、人を殺さざる者殆んど希なり。慎まざるべけんや。
○病を得て二三日云云も、亦後人のザン入のみ。
○下利譫語すと雖も、その他苦しむ所無し。故に燥屎有ると雖も、小承気湯を用うなり。
○傷寒エツ逆の症に、熱閉邪実に属す者有り。寒飲精虚に属す者も有り。又カイ虫に因る者有り。宜しく精診甄弁し、以って方を措くべし。世医皆吃逆を懼れ、故に一たび吃症を見れば、則ち以って胃寒
更に之を与う勿れ。「明日大便せず、脈反って微しく渋の者、裏虚なり。難治と為す。更に承気湯を与うべからざるなり。」○「太陽病、」若しくは吐し若しくは下し若しくは発汗す。微煩し小便数、大便因って硬き者に、小承気湯を与え、之を和せば癒ゆ。○病を得て二三日、脈弱く「太陽」柴胡の證無く、煩躁し心下硬く、四五日に至る。能く食すと雖も、小承気湯を以って、少少与え之を微和し、小安せしむ。五六日に至り、承気湯一升を与え、若し大便せざるに六七日、小便少なき者は、食する能わずと雖も、但初頭硬く、後に必ず溏す。

六十九頁 裏 解説
標注     
                                       類聚方
武断(ぶだん)=ただ自分だけの見解で物事を断定する
軽試
マン投
僥倖(ぎょうこう)=思いがけないしあわせ

甄弁(けんべん)=
吃逆=しゃっくり



七十頁 表
標注                                       類聚方
虚脱と為し、概ね治エツの剤を用うは、粗と謂うべけんや。王宇泰は、瀉心湯、小承気湯調胃承気湯、桃仁承気湯などを用い、キョウ廷賢の黄連解毒湯、白虎湯を用うは、具眼の士と謂うべけんや。 定まりて硬きを成さざるに、之を攻めば必ず溏す。小便利し屎の定硬を須ちて、及ち之を攻むべし。大承気湯に宜し。○下利譫語する者は、燥屎有らんや。○大便不通し、エツして数(しばしば)譫語の者は、

厚朴三物湯
小承気湯證にして、腹満劇なる者を治す。
厚朴 八両 
一銭四分 枳実 五枚 八分二厘 大黄 四両 七分
右三味、水一斗二升を以って、先ず二味を煮て、五升を取り、大黄を内れ、煮て三升を取り、一升を温服す。
水二合四勺を以って、二味を煮て

七十頁 表 解説
標注     
                                       類聚方
キョウ廷賢(きょうていけん)
具眼(ぐがん)=物事の善悪を判断する見識を備えている




大黄
タデ科の多年草、ダイオウ類の根茎
産地:中国西北部に自生する掌葉状のダイオウ(Rheum palmatium)、ギシギシに似た植物の根。錦紋大黄(表層模様より)など多種
効能:瀉下通便作用、清熱作用、瀉下する時には芒硝や枳実と合わせて用う



厚朴
モクレン科落葉高木カラホオの樹皮・厚朴(Magnolia officinalis)
日本ではホオノキの樹皮(和厚朴)を使用してきた。下記は中国産の唐厚朴
効能:整腸通便作用、強い通便作用は無いが腹にガスが溜まった便秘に大黄と合わせて使う



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