類聚方広義・第二木曜会 2011・11・10
附子瀉心湯より
急、脈洪大、或は鼾睡大息し、頻頻に欠伸する者、及び省後に偏枯、タンタン遂げず、緘黙して語らず、或は口眼カ斜、言語蹇渋、流涎泣笑、或は神思恍惚し、機転するに木偶人の如き者、此の方に宜し。 ○能く宿醒を解すは、甚だ妙なり。 ○酒客、鬱熱し下血する者。腸痔、腫痛下血の者。痘瘡、熱気熾盛、七孔出血する者。産前後に、血暈鬱冒、或は狂の如き者。眼目キン痛、赤脈怒張、面熱し酔うが如き者。齲歯疼痛、歯縫出血、口舌腐乱、唇風、走馬疳、痰胞、言語能わざる者。 |
心湯之を主どる。 為則按ずるに、煎方は、当に大黄黄連瀉心湯、附子瀉心湯の法に従うべし。又按ずるに、不足は千金に不定に作る。今之に従う。 附子瀉心湯 瀉心湯證にして悪寒する者を治す。 大黄 ニ両 一銭 黄連 黄ゴン 各一両 附子 一枚 各五分 右四味、三味を切り、麻沸湯二升を以って、之に漬して須臾、 |
鼾睡(カンスイ)=いびき 欠伸=あくび 省後=患いの後で 偏枯=半身不随 タンタン=身体機能を失う 緘黙(カンモク)=口をつむぎ黙る 口眼カ斜=顔面麻痺 蹇渋(ケンジュウ)=思うようにならない 流涎=涎を流す 神思恍惚=感情と意識が無くなる 機転(キテン)=すばやく物事に対処するはたらき 木偶人(デク)=木で作った人形 宿醒(シュクセイ)=二日酔い 酒客(シュカク)=酒飲み 痘瘡(トウソウ)=天然痘、ほうそう 七孔(シチコウ)=耳、目、鼻、口、顔面部にある七つの孔 赤脈(セキミャク)=白眼部分にある血管 齲歯(ウシ)=虫歯 歯縫(シホウ)=歯肉 走馬疳(ソウマカン)=小児に多く頬や口中が化膿する病気 痰胞(タンポウ)=重舌(唾石)の症状で舌下膿腫や顎部の化膿性疾患 |
麻沸湯(マフツトウ)=麻の実大の沫が出ている沸騰水 |
此の二證は、ハ針を以って横割し、悪血を去りオ液を取るを、佳と為す。 ○癰庁内攻し、胸膈寃熱、心気恍惚の者、発狂し、眼光栄栄、倨敖妄語、昼夜牀に就かざる者、以上の諸症にて心下痞、心中煩悸の症有るなり。瀉心湯を用いれば、其の効響くが如し。 老人停食、ボウ悶暈倒、人事を省みず、心下満、四肢厥冷、面に熱色無く、額上に冷汗し、脈伏して絶えるが如く、其の状は中風を髣髴する者、之を食鬱食厥と称す。附子瀉心湯に宜し。 此の方は、実に能く偏痛を治す。然れども特だ偏痛のみならず、寒疝にて、脇腹絞 |
絞り滓を去り、附子汁を内れ、分温再服す。按ずるに、此の方の附子は煮法詳らかならず。今意を以って之を裁くに、先ず沸湯六勺を以って三味を漬け、須臾、絞って滓を去る。別に水六勺を以って、附子を煮て、二勺を取り、合して之を服す。又四味を水煮するに、瀉心湯の如きも、亦佳し。 心下痞し、而して復悪寒し、汗出る者、 大黄附子湯 腹絞痛し、悪寒する者を治す。 大黄 三両 附子 三枚 各九分 細辛 ニ両 六分 右三味、水五升を以って、煮て二升を取り、分温三服す。水一合五勺を以って、煮て六勺を取る。 「若し強人は煮て二升半を取り、分温三服し、 |
癰庁(ヨウチョウ)=悪性のはれもの、できもの、フルンケル、カルフンケル 寃熱(エンネツ)=熱がこもる 倨敖(キョゴウ)=おごりたかぶる 妄語(モウゴ)=わけのわからないことを語る ボウ悶(ボウモン)=眼が見えなくなりもだえる 暈倒(ウントウ)=めまいがして倒れる 偏痛(ヘンツウ)=片側の痛み 寒疝(カンセン)=冷えて痛む |
強人(キョウジン)=体力のある人 |
痛し、延いては心胸腰脚に及び、陰嚢キン腫、腹中に時時水聲有りて、悪寒甚だしき者を治す。若し拘攣激しき者は、芍薬甘草湯を合わす。 寒は、水毒を謂うなり。 肘后、千金、外臺、皆甘草ニ両に作る。今之に従う。 ○胃反、カク噎、心胸痛、大便難の者を治す。 ○鷓鴣菜を倍加し、鷓鴣菜湯と名づくる。カイ虫にて、心腹痛み、悪心唾沫、小児の蛔症、及び胎毒、腹痛、夜啼き、頭瘡、疳眼、其の症候の診、施用の法は、橘黄医談に詳し。 ○小児好んで生米茶炭壁泥を食し、 |
服後人の四五里を行くが如くに、一服を進む。」 脇下偏痛し、発熱し、其の脈緊弦、「此れ寒なり。温薬を以って之を下す、」 大黄甘草湯 大便秘閉し急迫する者を治す。 大黄 四両 一銭六分 甘草 一両 八分 右二味、水三升を以って、煮て一升を取り、分温再服す。水一合八勺を以って、煮て六勺を取る。 食し已りて即吐く者、 |
胃反(イホン)=食べたものを吐く カク噎(カクイツ)=飲食物を飲み込めない病気 鷓鴣菜(シャコサイ)=中国では海藻のアヤギヌのこと、日本ではマクリ(海人草)を代用 橘黄医談(キッコウイダン)=尾台榕堂の著した上下二巻本 |
人の四五里を行くが如く=半里(2キロ)くらいの道のりを歩く時間で約30分くらい(大塚敬節) |
或は偏りて五味を嗜む者は、蛔虫に属す。此の方に宜し。 ○小児二三歳以上、五六歳以内、顔面痿黄、飲食好悪多く、時時卒倒し、人事を省みず、直視痙攣、驚風状の如く、而して白沫を吐す者は癲癇の基なり。早く鷓鴣菜湯を用いて、カイ虫を殺伐し、腸垢を蕩滌すれば、以って後の患いを免れるべし。 東洞先生曰く、芒消の分量は疑うべし。今桃核承気湯に従いニ両と為す。 傷寒脈浮云云は、桂枝加附子湯症なり。 |
為則按ずるに、当に急迫の證有るべし。 調胃承気湯 大黄甘草湯の證にして、而して実する者を治す。 大黄 四両 一銭六分 甘草 ニ両 芒消 半キン 各八分 右三味、フソし、水三升を以って、煮て一升を取り、滓を去り、芒消を内れ、更に火に上げ、微しく煮て沸せしめ、少少温服す。 水一合八勺を以って、煮て六勺を取り、滓を去り、芒消を内れ、消しせしめ服す。 「傷寒、」脈浮にして自汗出で、小便数、心煩し、微しく悪寒、脚攣急し、反って桂枝湯を与え、「其の表を」攻めんと欲すは、此れ誤りなり。之を得て |