類聚方広義・第二木曜会  2010・5・13


大青龍湯標註より〜文蛤湯まで


四十八頁前半

標註                                       類聚方


脈微弱にて、汗出で悪風する者は、豈大青龍湯を用いる者有らんや。是れ後人の注語なるのみ。逆と為すなりの下に、尚論編、後條弁、さん論、皆真武湯を以って之を救うの語有り。東洞先生も亦厥逆以下を、真武湯の症なりと謂うは、特だ其の症を取るのみ。
○傷寒云云、後條弁さん論に、以って小青龍湯と為す。誤りなり。東洞先生の之に従うは、未だ深考せざるのみ。
○麻疹にて、脈浮緊、寒熱頭眩、身体疼痛、喘咳咽痛、汗出でずして而して煩躁する者を治す。
○眼目疼痛し、風涙止まず。赤脈怒張し、雲翳四囲、或いは眉稜骨疼痛し、
痞を治す。瀉心湯之を主る。

大青龍湯
喘及び咳嗽し、渇して水を飲まんと欲し、上衝し、或いは身疼み、悪風し寒する者を治す。
麻黄 六両 
九分 桂枝 二両 甘草 二両 杏仁 四十個 各三分 生姜 三両 大棗 十二枚 各四分五厘 石膏 鶏子大 一銭二分
右七味、水九升を以って、先ず麻黄を煮て、二升を減じ、上沫を去り、諸薬を内れ、煮て三升を取る。滓を去り、一升を温服す。
水二合

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四十八頁前半解説
標註                                            類聚方
麻疹=はしか
雲翳四囲=視野の四隅に曇りがあること
眉稜骨=目の上の骨
石膏 鶏子大=鶏の卵、卵黄の大きさほどで約20グラム


四十八頁後半

標註                                       類聚方

或いは頭疼耳痛の者を治す。又爛瞼風にて、涕涙稠粘、そう痛甚だしき者を治す。倶に苡を加うを佳とす。兼ぬるに黄連解毒湯加枯礬を以って、頻頻洗蒸し、毎夜臥に臨み、応鐘散を服す。五日十日毎に、紫円五分一銭を与え、之を下すべし。
○雷頭風、発熱悪寒、頭脳劇痛し裂けるが如く、昼夜眠らざる者を治す。若し心下痞し、胸膈煩熱の者は、兼ぬるに瀉心湯、黄連解毒湯等を服す。若し胸膈に飲有りて、心中満し、肩背強痛の者は、当に瓜蔕散を以って之を吐すべし。
○風眼症、暴発劇痛の者は、早に救治せざれば、眼球破裂し迸出す。尤も極
八勺を以って六勺を取る。微似汗を取る。「汗出ずること多き者には、温粉にて之を粉す。一服にて汗する者は、後服を停す。汗多く亡陽せば、遂に虚し、悪風煩躁して、眠を得られざるなり。」
「太陽中風、」脈浮緊、発熱悪寒し、身疼痛し、汗出でず而して(して)煩躁する者は、大青龍湯之を主る。若し脈微弱にて、汗出で悪風する者は、服すべからず。之を服せば則ち厥逆し、筋タ肉潤す。此れを逆と為すなり。
○「傷寒、」脈浮緩、身疼まず、但重く、乍ち軽き時有り、「少陰症無き」者は、大青龍湯「之を発す。」後條弁、

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四十八頁後半解説
標註                                            類聚方
爛瞼風=流行性のただれ目・流行り目
涕涙稠粘=鼻水・涙が粘る
苡=オオバコの全草
枯礬=カリウムアルミニウムミョウバン
臥に臨み=眠りに就くに際し
応鐘散=大黄末@+川キュウ末A
紫円=代赭石+赤石脂+巴豆+杏仁
雷頭風=ひどい頭痛
瓜蔕散=瓜蔕とは原種マクワウリの蔕の部分
風眼症=流行目・トラコーマ
迸出=ほとばしる、出る
温粉=米の粉という説あり
筋タ肉潤=筋肉がぴくぴく動揺し引き攣る




四十九頁前半
険至急の症為り。急いで紫円一銭、一銭五分を用い俊瀉数行を取りて、大勢已に解して、而して後に此の方を用うべし。其の腹症に随い、大承気湯、大黄硝石湯、瀉心湯、桃核承気湯等を兼用す。
○小児赤遊丹毒、大熱煩渇、驚タす。或いは痰喘壅盛の者を治す。紫円、或いは籠葵丸を兼用す。
○急驚風、痰涎沸涌し、直視口禁の者、当に先ず熊胆、紫円、走馬等を選び、吐下を取るべし。後大熱煩躁、喘鳴ちく搦し、止まざる者は、宜しく此の方を以って発汗すべし。

文蛤湯、其の症錯誤たるや明らか
論、皆云うに、当に是れ小青龍湯証なるべし。今之に従う。
○「病溢飲の者は、当に其の汗を発すべし、」大青龍湯之を主る。小青龍湯も亦之を主る。
為則按ずるに、当に渇の證有るべし。葢し厥逆以下は、真武湯之の證なり。考うべし。

文蛤湯
煩躁して渇し、悪寒、喘咳、急迫の者を治す。
文蛤 五両 
七分五厘 麻黄 甘草 生姜 各三両 大棗 十二枚 各四分五厘 石膏 五両 七分五厘 杏仁 五十個 三分五厘

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四十九頁前半解説
標註                                            類聚方
赤遊丹毒=溶連菌(溶血性連鎖球菌)による咽や舌が赤くなる病気、発熱(猩紅熱)、発疹、咽痛など
驚タ=驚いてひきつける
籠葵丸=軽粉+巴豆+フユアオイ(籠葵)
急驚風=子供の突発性ひきつけ
直視口禁=目が動かさず口を噛み閉める
熊胆=熊の胆のう(ツキノワグマ)
走馬=走馬湯のことで巴豆+杏仁
ちく搦=痙攣性のひきつけ 搦(でき)=握る・絡める

文蛤=ハマグリ




四十九頁後半

標註                                            類聚方
にして、之を事実に験すれば、即ち自ずから了了たり。夫れこの方は大青龍湯と、其の出入する所、僅か一味、而して分量小異有るのみ。この方は本発散の剤なり。方後の汗出れば即ち癒ゆの語を観て、而して見るべし。兼主云云の八字の如く、注語に似ると雖も、亦以って其の方意を見るに足る。其の方意を見て、今挙げる所特だ渇飲の一症のみ。是れ渇して水を飲まんと欲し止まざる者と同じく、文蛤散の症なり。此れに由り之を観るに、吐後以下十字、其の錯簡為るや明らかなり。按ずるに、五苓散條に、列し挙ぐる所の症は、正に是れ文蛤湯の症なり。本論に文蛤散と作るは誤りなり。全章 右七味、水六升を以って、煮て二升を取り、一升を温服す。水一合八勺を以って、煮て六勺を取る。汗出れば即ち愈ゆ。
吐後、渇して水を得んと欲し、而して飲を貪る者、文蛤湯之を主る。「兼ねるに微風し脈緊頭痛を主る。」
為則按ずるに、当に喘の證有るべし。

文蛤散
渇して水を飲まんと欲すを止まざる者を治す。
文蛤 五両 
十銭
右一味、散と為し、沸騰を以って、一銭ヒに和し服す。湯は五

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四十九頁後半解説
標註                                            類聚方
微風=寒がることか?



苡=車前草=オオバコ

オオバコ科 オオバコの全草
効能:全草に含まれる成分は気道粘液の分泌を促進することから咽の痛む時に使われた。また鎮咳作用、去痰作用もある。種子には利尿・通淋・明目作用があるとされ漢方薬で利用されてきました。


熊胆=ゆうたん=熊の胆のう

クマ科 ツキノワグマやヒグマの胆のうを乾燥させ、中の乾いた胆汁を内服し薬用としました。
ワシントン条約での規制動物とされ捕獲や移動が禁じられています。その為、近年は入手困難の動物生薬です。

効能:胆汁酸を含み抗痙攣作用や胆汁分泌作用があります。消化酵素も含まれ消化不良、腹痛、食あたりなどにも使われてきました。漢方では清熱・解毒・明目・痙攣止めに使われ胆石症状や万能薬として用いられてきました。小児のひきつけや疳の虫、発熱に麝香・沈香とあわせた奇応丸があります。


ヒグマの胆のう (吊るして乾燥させたもの、胆汁液が乾くと吸湿性は無く黒黄色透明となる、ヒグマは肉食を好む雑食性)


ツキノワグマの胆のう (捕獲して胆のうをコタツで圧縮乾燥したもの、ツキノワグマは草食を主とした雑食性)


ユウタン市場品 (最近の中国では熊を眠らせ胆のうから直接胆汁を注射器で吸い取り乾燥し熊を殺さないと聞きます。)


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