類聚方広義・第二木曜会  2009・1・13

●1月13日は二十一頁後半の黄耆建中湯から、二十三頁後半の黄耆芍薬桂枝苦酒湯まで読みました。

黄耆建中湯より

二十一頁後半
標註                                       類聚方

便数と、曰く多く、曰く数と、是れ亦常を失する者にて、益に以って徴するに足るや。故に余は黄耆建中湯を用うなり。又按ずるに、本草綱目、黄耆部、総微論を引くに、小便不通を治す方に、綿黄耆二銭、水二盞(さん)を、一盞に煎じ、温服すと。


千金、外臺、倶に黄耆三両に作る。今之に従う。
○此の方に、当帰を加え、耆帰建中湯と名づけ、諸瘍、膿潰の後、
荏苒癒えず、虚羸煩熱自汗盗汗し、稀膿止まず、新肉長せず者、若し悪寒下利し、四肢冷たき者は、更に附子を加う。又痘瘡、淡白にて
為則按ずるに、腹中拘急の證有るべし。其の方芍薬甘草湯に類するなり。


黄耆建中湯
小建中湯證にして、而して盗汗自汗の者を治す。
小建中湯方内に於いて、黄耆一両半を加う。
桂枝 生姜 大棗 
各四分五厘 甘草 三分 芍薬 九分 黄耆 四分五厘 膠飴 四銭
右七味、煮ること小建中湯の如し。


二十一頁後半解説
標註                                            類聚方

荏苒(じんぜん)=歳月がゆっくりと過ぎ去るさま。




二十二頁前半
標註                                       類聚方

灌膿せず、及び灌膿の際に、平トウ灰白、或いは内陥外剥し、下痢微冷し、声唖して脈微の者を治す。伯州散を兼用す。若し下痢せず、通身灼熱し、寒戦咬牙し、胸腹脹満、痰喘口渇、短気煩躁、脈の数急の者は、死生于に反掌に在り。調胃承気湯、大承気湯、走馬湯、紫円の類を撰用し、以って酷毒於いて一舉にけば、則ち庶幾に於いて百死に一生を回すべけんや。

この方に、朮附を加え、産後累月にて、血気復さず、寝汗不食し、肢体麻痺、或いは微しく腫れる者を治す。又
「虚労」、裏急「諸不足」、

為則按ずるに、当に盗汗黄汗の證有るべし。又曰く、桂枝加芍薬湯は、当に(干)此こに入るべし。而して桂枝の名有るを以って、彼に列するや。

黄耆桂枝五物湯
桂枝湯證にして、而して嘔し、身体不仁し、急迫せざる者を治す。
黄耆 三両 芍薬 三両 桂枝 三両 大棗 十二枚 各六分 生姜 六両 一銭二分
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二十二頁前半解説
標註                                            類聚方

トウ=崩れ倒れる。
声唖=声が出なくなる。
殱=つ・く。ほろ・ぼす。=殺し尽くす。

 二十二頁後半
標註                                       類聚方

産後已に歳月を経て、而も浴湯毎に、肌膚に不快を覚える者有るに、亦此の方宜し。若し腹満せずも、其の人我が満を言う者、及びダン跳動し、脇腹結実する者は、夷則丸を兼用す。
○身体痺れ、而も肌膚に習習たるを覚える者、之を血痺と謂う。身体痺れ、而も不仁なる者、之を風痺と謂う。風痺は、肌膚頑麻して、痛痒を知らざるなり。
右五味、水六升を以って、煮て二升を取り、七合を温服す。日に三服す。水一合八勺を以って、煮て六勺を取る。
「血痺、陰陽倶に微、寸口関上微、尺中小緊、外證」身体不仁にて、「風痺」状の如きは、
為則按ずるに、桂枝加黄耆湯證にして嘔し、急迫無き者、


黄耆芍薬桂枝苦酒
身体腫れ、発熱汗出で、汗衣を沾し、色正に黄、蘗汁の如き者を治す。

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二十二頁後半解説
標註                                            類聚方
浴湯=湯を浴びること。
ダン中=任脈上の両乳頭と交わる点。

夷則丸(浮石丸)=軽石・赤石脂・大黄・芒硝
習習=感覚がなくなりザワザワとした。
苦酒=酢のこと。

 二十三頁前半
標註                                       類聚方


本邦の醋は、気味ゲン、故に法の如く之を煮て、間々服す能わざる者有り。水煮して用いるべし。○阻は、格なり。病毒と、相阻格す。故に心煩を発すなり。傷寒例に曰く、凡そ汗を発し、湯薬を温服し、云々と、若し病と相阻めば、即便ち覚える所有りや。是なり。

千金方に、沾は染に作る。薬は蘗に作るを是とす。
黄耆 五両 一銭五分 芍薬 桂枝 各三両 九分
右三味、苦酒一升、水七升を以って、相和し、煮て三升を取る。一升を温服す。苦酒二勺、水一合四勺を以って、煮て六勺を取る。
当に心煩す。服すこと六七日に至れば、及ち解す。若し心煩止まざる者は、苦酒の阻むを以って故なり。

「問いて曰く、黄汗の病為る、」身体腫れ、発熱汗出で而して渇す。状「風水」如きは、汗衣を沾す。色正に黄にて薬汁の如く、「脈自沈、何ぞ従って之を得ん。師の曰く、汗出で水中に入り浴せば、水汗孔従り
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二十三頁前半解説
標註                                            類聚方
ゲン冽=濃くて強い。 阻む=はば・む。
沾す=うるお・す。

 二十三頁後半
標註                                       類聚方







両手を相錯し叉するを曰う。冒は、覆うなり。心下悸して、而も上衝急迫し、手を以って親しく心胸を覆圧し、稍(やや)安きを覚うが、故に又人をして之を按ずるを得んと欲すなり。然れども諸の桂枝加桂湯に比ぶれば、衝逆は猶軽き者なり。
之を得て入るを以ってす。」


桂枝甘草湯
上衝急迫の者を治す。

桂枝 四両 二銭 甘草 一両 一銭
右二味、水三升を以って、煮て一升を取る。滓を去り、頓服す。水一合八勺を以って、煮て六勺を取る。
発汗過多、其の人叉手し、自ずから心を冒す。心下悸し、按ずるを得んと欲する者は、
為則按ずるに、当に急迫の證有るべし。
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二十三頁後半解説
標註                                            類聚方

●当帰 セリ科 日本では Angelica acutiloba(ヤマトトウキ=大和当帰・大深当帰・北海当帰) の根を用います。中国では Angelica sinensis(カラトウキ)が用いられ種類が異なります。
薬理の作用:鎮痛・消炎・循環促進
漢方の効能:補血・活血・調経・潤腸
漢方の利用:月経不順・貧血を伴った虚弱体質・腹痛・手足の痛み・打撲・シビレ・皮膚の炎症・便秘など

当帰の配剤される頻用漢方処方

四物湯=地黄・芍薬・川キュウ・当帰の構成で貧血傾向の月経異常、妊娠時に用います。
温経湯=半夏・麦門冬・川キュウ・当帰・芍薬・人参・桂枝・牡丹皮・阿膠・甘草・呉茱ユ・生姜の構成で下腹部血行障害による不妊症や子宮内膜症などに用います。
キュウ帰膠艾湯=川キュウ・当帰・地黄・阿膠・艾葉・甘草で構成され男女を問わず諸出血疾患。
加味逍遥散=当帰・芍薬・白朮・茯苓・薄荷・甘草・牡丹皮・山梔子・柴胡で構成され男女に係わらず更年期症状に用いられます。
当帰四逆加呉茱ユ生姜湯=当帰・桂枝・芍薬・木通・細辛・甘草・大棗・呉茱ユ・生姜で構成され血行不良による手足の痛みや冷えに用います。
当帰芍薬散=沢瀉・白朮・茯苓・当帰・芍薬・川キュウで構成され貧血や血行障害がある婦人疾患に用いられます。
●黄耆 マメ科 Asutragalus membranaceus(キバナオウギ・亜種=ナイモウオウギ)の根を用います。
薬理の作用:利尿・強壮・降圧・末梢血管拡張・抗アレルギー作用
漢方の効能:補気・利水消腫・止汗・排膿
漢方の利用:抵抗力や体力をつける。浮腫みを取る。寝汗などに使う。皮膚を丈夫にして排膿させる。

黄耆の配剤される漢方処方

補中益気湯=黄耆・人参・白朮・当帰・陳皮・大棗・柴胡・甘草・升麻・生姜
十全大補湯=黄耆・人参・白朮・当帰・茯苓・地黄・川キュウ・芍薬・桂皮・甘草
防己黄耆湯=防己・黄耆・朮・甘草・大棗・生姜
托裏消毒飲=当帰・茯苓・人参・川キュウ・桔梗・白朮・芍薬・p角刺・黄耆・金銀花・白シ・甘草
千金内托散=当帰・川キュウ・人参・黄耆・桔梗・防風・厚朴・桂枝・白シ・甘草

●伯州散について 出典は伯州地方(今の鳥取県西部)

伯州散

吉益東洞著 古方兼用丸散方
読み↑

伯州散 悪毒発出し難き者を治す。一方を見るに曰く。一切の打ち身・瘧疾・瘡毒・或いは諸瘡内攻の者を治す。又一方を見て曰く、毒腫又膿有る者を治す。
反鼻 津蟹 津蟹は是れ河蟹にて海蟹に有らずなり。
角石 各とし各等分す。 角石は即ち鹿茸なり。
右三味各別に搗き篩いし合して散と為す 之を服し法酒にて一銭を服す、病


※反鼻はマムシのことですが鼻のあたりが反り返っていることからそう呼ばれるようになったのかもしれません。
伯州散に関して大塚敬節先生が失敗した例を話してくれました。
昭和10年頃に奥さんがモノモライ(麦粒腫)を患い、湯本求真先生に相談したら伯州散を勧められたので飲ましたところお岩さんのように腫れあがったんだそうです。痛みもひどく東大の外科で切開してもらって治ったと言います。矢数先生の知り合いでやはりモノモライを軽んじて敗血症になり亡くなった人がいたと聞きました。(類聚方広義・黄耆建中湯解説3ページ参照)

「症候による漢方治療の実際 1963年 大塚敬節著」の化膿症・その他の腫れ物 3内托散 506ページに浅田宗伯先生著の橘窓書影巻二千金内托散の治験一文が引用されていますので紹介してみます。
症候による漢方治療の実際には507ページに伯州散のことも書かれています。
参照下さい。

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