類聚方広義・第二木曜会   平成19年12月13日

今日から類聚方広義の処方解説に入っていきます。
進行は下段の類聚方の解説(右)を読んで解釈し、その条文に関わる上段の欄外部分(左)を解説しながら読むという方法をとります。

注=現在使われていない特殊文字はgif画像で作成し載せています。難しい漢字の読みはふりがなをつけました。左右の解説が合うように並べています。

では始めましょう。
一頁

標註                                          類聚方

桂枝湯は、葢し経方の権與なり。傷寒論は、始め桂枝湯に資(と)り、雑病論は端を括婁桂枝湯に発するは、必ずしも偶然に非ざるなり。斯の書の方を列するに、亦桂枝湯を以って衆方の嚆矢(こうし=かぶらや)と為す。仲景の方は、凡そ二百余首、其の桂枝を用いるは、殆んど六十方、其の中に桂枝を以って主薬と為すは、三十方に垂(なんなん)とす。是れ亦以って其の諸他方と比べるに、変化の最も多きを見るべし。

陶弘景の曰く、咀(ふそ)とは、細かく之を切り、較略(ほぼ)咀(ふそ)の如くにせしむると。

適(かな)は、適宜の義にして、中を得るを謂うなり。


霊枢師伝篇に曰く、飲食衣服、亦寒温に適(かな)えんと欲すと。十四難に曰く、其れ飲食を調え、其の寒温に適(かな)えんと。千金の卒倒を治す法に曰く、冷暖に適(かな)え三升を飲むと。説文に曰く、は、用いるなりと。気味を合わして之を服すと、素問臓気法治論に見ゆ。

医の薬を用うるに於いて、発汗吐下を論ずること勿く、假使(たとい)方証相対するも、苟(いや)しくも薬量用度機宜に適えずんば、疾(しつちん)安(いずく)んぞ其の治を得んや。故に處療の際に、尤も心を斯こに用いざるべからずなり。但世人の多くは攻疾に怯(ひる)み、是れを以って其の汗吐下に於いて、多くは之を不断に失し、顧望(こぼうしそ)して、為すべきを為す能わずし、却って軽きを

 類聚方広義

                後学 江戸 尾台逸士超撰


桂枝湯 上衝、頭痛し、発熱し、汗出で、悪風し、腹拘攣する者を治す。

桂枝三両 芍薬三両 生姜三両 大棗十二枚(今各七分五厘を用いる) 甘草二両(五分)

右五味、咀(ふそ)し水七升を以って、微火(とろび)にて煮て三升を取る。






滓を去り、寒温に適(かな)え、一升をす。(今水一合四勺を以って、煮て六勺を取り服す。)服し已わり、須臾(しゅゆ)にて熱き稀粥一升余りを(すす)り、以って薬力を助ける。温覆すること一時(ひととき)許(ばか)りならしむ。遍身(ちゅうちゅう)と汗有るに似たる者は、益すに佳し。水の流漓(りゅうり)するが如くせしむべからず。病必ず除かれず。若し一服にして汗出でて病癒えば、後服を停(とど)む。必ず剤を尽くさず。若し汗せずは、更に復すること前法に依る。又汗せずば、後服を少し其の間を促し、半日許(ばか)りにして三服を尽くせしむ。若し病重き者は、一日一夜に服し、周時之を観よ。一剤を尽くし服し、病證が猶在る者は、更に服を作る。若し汗出ざる者は、及ち服するに二三剤に至る。
一頁解説↓
経方とは傷寒論と金匱要略を指します。
権與とは基準とか基本という意味です。
括婁の括の字は木へん、婁の字は草かんむりが付きます。
嚆矢とは戦いを始める時に放つ音の出る矢のことで最初という意味。

(しつちん)とは様々な病気のことです。
世人とは当時の医者のこと。
顧望(こぼうしそ)とはうろうろして迷うばかりという意味です。
後学とは吉益東洞先生の類聚方を後の世に学んだという意味です。
超撰とは超が「誰々において」という意味、撰は「選ぶ・より分ける」という意味です。
上衝から始まる文は吉益東洞著=「方極」という本の条文です。弟子には必ず暗唱させたとも言われています。最上段に出てくる症状が最も重要視されます。方極には腹症が述べられている事に注目してください。
咀(ふそ)とは噛み砕いて小さくするということです。

須臾(しゅゆ)とはしばらくの時間・直ちにという意味です。
温覆とは物に包まって暖かくするという意味です。
は水がじわじわと、という形容の言葉です。

二頁↓
標註                                             類聚方
重きに至り、重きを非命に斃(たお)れせしむる。東洞先生之を域するは、其の意は特に流弊を矯(ただ)すに在るのみ。服度斟酌を、安(いずく)んぞ廃すべけんや。学者之を思え。○玉函、千金、千金翼、共に禁生冷以下の十五字無し。是なり。

第二章は、是れ桂枝湯の正症なり。悪風の下に、脈経には若悪寒(若し悪寒)の三字有り。
特に上衝の一症に就いて、桂枝湯を用うるを、桂枝の主治する所と見るべし。桂枝去芍薬湯、桂枝加桂湯、桂枝甘草湯、亦併せ考うべし。按ずるに、方前法用(方は前法を用う)の四字は、玉函、千金翼には、併せ無し。是なり。

壊病は、汗下諸治を経て、正症の敗壊したるを謂うなり。症に随って之を治すの一句は、處方の大要言にして、苟(いや)しくも斯の義を会すれば、方剤の用、疾病の治、之を掌上に運らすべし。王肯堂の曰く、症に随い之を治すの一句は、語活にして義広く、知言と謂うべし。○若し其の人脈浮緊にして、発熱汗出ざるは、麻黄湯を用うべし。若し症にて煩躁し、或いは渇するは、大青龍湯を用うべし。

反って煩し解せざる者とは、薬が瞑眩すと雖も、薬力徹せず、病未だ除くを得られざるなり。故に及ち桂枝湯を用うなり。

桂枝湯を服し以下の十八字は、是れ白虎加人参湯の條文が、
生冷粘滑、肉麺五辛、酒酪臭悪等の物を禁ず。

@「太陽中風、陽浮にして陰弱く、陽浮は熱自ずから発し、陰弱きは汗自ずから出る。嗇嗇悪寒、」淅淅悪風、翕翕発熱、鼻鳴り乾嘔する者は、

A「太陽病、」頭痛発熱、汗出で悪風する者、

B「太陽病、之を下して後、」其の気上衝する者は、桂枝湯を与えるべし。方は前法を用う。若し上衝せざる者は、之を与うべからず。

C「太陽病、」三日已に発汗し、若しくは吐し、若しくは下し、若しくは温


鍼し、仍ほ解せざる者は、此れ壊病為り。桂枝を与うに中らざるなり。其の脈證を観て、犯すに何の逆を知り、證に随って之を治す。

D「桂枝は本(もと)解肌と為す。若し其の人脈浮緊にて、発熱汗出でざる者には、与えるべからず。常に須(すべか)らず此れを識るべし。誤らせしむこと勿れ。」

E「若し酒客病ならば、桂枝湯を与うべからず。湯を得れば則ち嘔す。酒客は甘を喜ばざるが故なり。」

F「凡そ桂枝湯を服し、吐す者は、其の後必ず膿血を吐すなり。」

G太陽病、初め桂枝湯を服し、反って煩し解せざる者は、「先ず風池風府を刺し、」卻って桂枝湯を与えれば則ち癒ゆる。

H桂枝湯を服し、
二頁解説↓
服度斟酌とは桂枝湯の服用法を記述してある処です。


瞑眩とは病状が動くために身体に症状の変化が起きることを言います。服用後直ぐに起きるか、二三日以内に吐き気や下痢、発熱などが起きます。瞑眩後は病状が快方に向かうため副作用とは区別しています。
五辛とはニンニク・ニラ・ラッキョウ・ノビル・ネギを指すと言われています。いずれも臭みのあるユリ科の植物です。

「陽浮にして陰弱く、陽浮は熱自ずから発し」の部分は説が多く、軽く脈を抑えるのが陽で強く抑えるのが陰という説、陽が寸口の脈で陰が尺中の脈というのも一説です。

「誤らせしむこと勿れ。」の一句は浅田宗伯先生の勿誤薬室の語源になったと言われています。

桂枝湯を服して膿血を吐すのは肺壊疽を病んでいる人だろうと言われます。

風邪をひいた時に足の少陽胆経の風池、督脈の風府に鍼をするという記述が見られます。東洞先生は域して排除しています。
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