「高級カメラと眼鏡、それが日本人海外旅行者のシンボルだという話があります。
なるほど日本におけるカメラの普及度は高いといえましょう。
しかし、外国の観光地あたりで、大の男がボックスカメラにカラーフィルムをつめて、頗る気安くパチパチやっているのを見ますと、その普及ということのありかたにいささか相違があるように感じられます。
外国のそれがより一般的、より大衆的であるのに反して、日本のそれには、まだ昔ながらの写真アマチュアの匂いが残っているように思われます。
ただしこの傾向が、ここ数年来急激に転換しつつあるようです。
それは、単に写真の世界に住む者だけにではなく、生活を豊かにする一助として、また科学する心を培う意味において、大変結構なことだと思うのですが、これを助長するには、やはりそれに適した機材の誕生が必要なのではないでしょうか。
万年筆やボールペンの如く、万人が常に携行して邪魔にならず、容易に使えそういうカメラが必要なのではないでしょうか。
オリンパスペンの名称のよって来るところはここにあり、このカメラに託したわれわれの期待もここにあります。
万人が気安く入手し得る価格で、万人が気安く持ち歩き得る大きさ、重さ、形で、万人が気安くレリーズボタンが押せて、気安く楽しめる写真の出来るカメラ、それがオリンパスペンの理想であります。
ペンサイズというとお叱りを受けるかも知れませんが、24×18のシングルフレームを採用した理由は、もらろん上述の携行性にあります。
レ ン ズ |
Dズイコー1:3.5 f=28mm |
シャッター |
コパル000、B、1/25−1/100秒
ビハインド式 |
焦点調節 |
シングルヘリコイド全体繰り出し
∞〜0.6mm |
ファインダー |
ブライトフレーム倍率0.5 |
単に大きさだけから申しますならば、スプリングカメラ形式によってダブルフレームでもこの程度にはなし得ましょうが、それでは速写性能に欠けます。
また、いっそ、16ミリにしたらということになりますと、フィルムの点で万人向きとはいえますまい。
日本に限らずネガ、ポジのカラーフィルムから、モノクロームに至るまで、好みのフィルムが自由に入手し得る点では、35_の右に出るものはありません。
また、現像、焼き付け、引き伸ばしからスライド映写に至るまで、なんら特別の器具を必要としないことも、大きな特長といえましょう。
このサイズならどこのDP屋さんでも、喜んで処理して下さると思います。
24×24を採用しなかった理由も一つは携行性にあります。
もちろん、作画上不経済な正方形を避けたという理由もありますが、レンズの画角や焦点距離の関係で24×24ではかくのごとく薄型にはなし得ません。
ペンサイズに28_の画角は54度、ダブルフレームに42_程度のレンズを採用した場合と同等で、準広角と一般にはいわれますが、非交換レンズのカメラには最も利用度の多い角度です。
シングルフレームのペンカメラという要望は、実は数年前から多くの先輩に頂いております。
これがオリンパスペン誕生の大きな力になったことについては、いちいちお名前は申しあげませんが、感謝しております。
ただ、カメラ界のベテランであるそれ等諸先輩のサジェスションは、24×18のペンカメラという点では一致していても、細部においてはやはりお好みの違うところが多々あります。
したがって今日具体化されたペンの姿をご覧になって、ご不満の点も多かろうと考えております。
そういう点は、冒頭に申しあげた企画の線において、取捨選択させて頂いたことをご諒承頂きたいと思います。
ただしレンズだけは、コストの許す範囲ということで、口径比を3.5におさえましたが、四枚構成のDズイコーを装着しましたので、必ずやご満足頂けるのではないかと考えております。」
以上は昭和35(1960)年1月号の月刊誌「写真工業」に載った拙稿「オリンパスペンの企画と設計」の書き出し、「その意図」の全文である。
前年(1959)5月、マスコミに発表されたペンはその10月に発売になり、異常な反響を呼んだ。
そこで「写真工業」はその特集を組み、これに17ページをさいている。 昭和のカメラ界に一時代をつくったハーフサイズカメラの幕あけである。
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